▼氷室辰也
「辰也」
呼ぶと振り向いた端整な顔立ち。しかし彼の左目は隠れており、それを少し勿体ない、と思ってしまう。折角綺麗な顔してるのに、と。私は彼の前髪を上げ、隠れていた左の眼を見た。右と同じく、綺麗な目。見た目は涼しげなくせに、中は熱いんだろうな。確か、頭はクールで心はホットだっけ?辰也らしい、良い目だと思う。
「どうかした?」
彼の問いに首を振る。別にどうかしたわけではない。ただ、彼を綺麗だと思っただけだ。意思の強そうな瞳を持った、人形のように美しい彼が。精一杯背伸びをして、彼の顔に近付こうとした。でも身長は平均以上ある彼だから、私が届く筈がない。仕方がないからネクタイを引っ張って、顔を引き寄せる。目を見開くその姿さえ美しいのだから、彼は罪な人だ。引き寄せたその顔、いや唇に自分のそれを重ね合わせた。目は開けたままで、だ。辰也とキスできて、目をより近くで見れる。一石二鳥でしょ?大きく開かれていた目は柔らかに細められ、頭と腰を掴まれる感覚。密着する体と共に口内に差し込まれる舌。辰也とのキスはくらくらして、まるで溶けちゃいそうな感覚に陥る。流石はアメリカ仕込みだ。末恐ろしい。しばらくそうしていたが、満足したのか彼の唇は離れていった。名残惜しげに私達を繋ぐ銀糸を舐めとって、辰也は微笑む。彼の目は、先ほどとは違い熱を孕んでいた。私は薄く笑い、彼の首に腕を回す。そして視界を真っ黒にし、再び訪れた口付けを感受した。
2012/07/16 02:19