「じゃあ行ってくるよ」
「行ってきます。」
高校を卒業してから、私は美術系の専門学校へ通う事になった。
もちろん省吾は第一志望の大学に無事合格して、キャンパスライフを堪能している。
専学生活を始めて数ヶ月も経つとやっぱり新しい友達や知り合いなんかもでき、学校帰りに遊んだりする事もあれば、当然帰宅するのも遅くなる。すると親がうるさい。
他にも、あんたはもうすぐ成人するんだからしっかりしなさいだの何だの言われて鬱陶しいのだ(特に母親が)。
そんな訳で、私は一人暮らしを始めた。
一人暮らしと言っても都心部ではなく、自宅からそれ程かからない近所にある、ユニットバス付きのワンルームというお決まりの物件だが、一人になれるのならこの際何でもいい。それに、たまには実家に帰りたくなる事もあるだろうし、近いというのも悪くはないと思う。
しかし、一人暮らしを始めると、意外とこれが大変だ。
家事は自分でやらなければならない、当たり前と言えば当たり前だが、正直な話一人暮らしがしたいという気持ちが先行してそういった事は二の次だった。
省吾には、みすずはあまり後先考えずに行動するからすぐに壁にぶつかるんだよ、とよく言われるが、あいつはあいつで慎重すぎる。石橋を叩いて渡るとよく言うが、まさに省吾の事だ。
………話が逸れたわ。
とにかく、どうやら家事があまり好きではない私を見兼ねて、省吾が家事をしにきてくれるのだ。
まあそういう理由じゃなくても、省吾とは付き合っているのだから、いつでも好きな時に来れるようにはしている。合い鍵も渡してるし。
そして今日も省吾は泊まりに来ている。
今は晩御飯を作ってくれていて、はっきし言って省吾は私なんかよりもずっと料理が上手い。料理だけじゃない、掃除も洗濯も、いわゆる家事全般が私よりも全然上手いのだ。
いっその事女に生まれてきた方がよかったんじゃないのかしら? というくらい。
そんな事を考えていると晩御飯ができたようで、私に料理を運んでくれと声を掛けてきた。まあそれくらいはやらないとね。私は言われた通りに料理の盛られた皿なんかをテーブルに運んだ。
食事が済むと、省吾はテレビの音声を耳にしつつ洗濯物を畳んでいる。
本当に主夫みたい。
結婚したらこうやって家事してくれるのかしら? 何か全部やってもらうのも悪いからゴミ出しくらいはしようかな……、やだ私ったら、何考えてんのかしら。
結婚なんてまだするかも分からないのに……。
でも、半同棲のようなこの生活自体、結婚している気持ちになるわ。きっと本当に結婚したとしても、今と同じような生活が繰り広げられるような気がする。
…まあ、今よりも大変な事はあるとは思うけど。
翌日、目が覚めると既に隣には省吾の姿はない。ベッドで横になったまま台所の方に目をやると、省吾が料理をしている。
私は起き上がると、省吾に近づき抱き着いた。
「おはよう!」
「わっ、びっくりした」
「ふふ、驚いた?」
「うん。でも今火使ってるから、いきなり抱き着いたりしちゃだめだよ」
省吾に言われて、私は素直に離れた。
その後、出来上がった朝食を食べながら付けてるテレビにぼんやりと目を通しつつ省吾と会話を交わす。
「今日は大学朝から行くの?」
「うん」
「うち泊まる?」
「今日は家に帰るよ」
「分かったわ」
今日は泊まっていかないのか、ちょっと寂しかったけど、まあしょうがないわね。私は味噌汁をすすりながら返事した。
「じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
今日は省吾が先に家を出た。
結婚したら毎日こういう挨拶を交わすのだろう。まあでも結婚はまだ先の話だけど。少なくとも省吾が大学を卒業してからかしら。
私はそんな割と想像に容易い未来を考えながら、省吾を見送った。
End
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年齢操作モノですみません。
みすずは大学より専門学校行きそうな感じがします。
あと、省吾は家事がうまいと思う。
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