幽霊


道を歩いていると、電信柱の側に髪の長い女性が立っているのを見かけた。俯いているので顔は窺い知れないが、省吾は目に入った途端にある事に気が付きすぐに目線を違う方向へと向け、何事もないように女性を無視し歩く。

つとめて平静を装いながら彼女の側を通り抜け、視界に入らなくなるとようやく肩の力が抜けた。

あの女性はこの世のものではない。

ツブレビルでの一件以来、省吾はそういったこの世のものではないものが見えるようになってしまっていた。
それまではオカルト全般はまるっきり信じてはいなかった。それはみすずのオカルト好きに振り回された結果というのも大いにあるのだが、元々現実主義的な所もあったからだ。
しかし、今は信じないもへったくれもない、嫌でも見えてしまうのだから。



「(………うう、さっきの人凄く陰欝な感じだったなあ…、自殺した人かな………)」

省吾はそこまで考えてから、ぶんぶんと首を横に振る。

「(……何考えてんだろう全く…、やめよう。頭の中を切り換えないと…)」

最後に嫌なものを見ちゃったなあ、と考えてから省吾は気持ちを切り換えた。
帰って飼い猫にマタタビでもあげよう、ヘロヘロになるだろうな。などと考えていると、だんだん気分も落ち着いて来た。その時突然後ろから誰かに肩を叩かれたので、省吾は驚いて飛び上がる。

「うわあああぁぁ!!!」

「ひぃっ!!」

省吾の叫び声に合わせて誰かの驚く声がした。恐る恐る振り向いてみると、そこにはみすずがいる。
どうやら偶然にもこの道を歩いている途中で、省吾の姿を見つけて追い掛けてきたようだ。

「……な、なんだ、みすずか……びっくりさせないでくれよ……」

「それはこっちのセリフよもう! 何なの、今の驚きようは!?」

叫び声にかなり驚いたみすずは顔を強張らせている。
省吾は改めて安堵の声を漏らし、みすずを見た。

「だってさ、さっき……」

と、言いながらふとあの女性の霊がいた電信柱のある場所に目をやると、そこにはすでに何もいなかった。省吾は再び、ぞっとする。

「え、あれ……?」

ここは長い一本道だ。省吾が通り過ぎてから、振り返って女性のいた場所へ視線を向けるまでの間に、彼の視界に入らない場所へ行くのは不可能。
恐らくその場から消えたに違いない。それが、あの女性がこの世の者ではないという事を決定づけている結論に至った。

「……………」

「……ねえー、どうしたのよー?」

眉間に皺を寄せて言葉が出ない省吾を見つめて、みすずは訳が分からないとばかりに口を挟む。無理もない、みすずには女性の霊は見えていないし、省吾が何を見たのかも分かっていないのだ。

「ねえってば〜、省吾〜」

省吾の腕を取ってぐいと引っ張ると、省吾はやっと我に返りみすずを見る。

「あ、ああ……、何でもない」

みすずの問い掛けに、省吾はそう言い前に振り返って歩こうとした際、





『私の事見えてるんでしょ』





という声が、彼の耳元で囁かれた。



「うわああああ!!!!」

「えっ! 何! 何なの!?」

それから先はよく覚えていなかった。
気が付いたら、省吾はみすずの手を掴んで猛ダッシュしていた。
霊の存在に気付いていないみすずは突然手を掴まれて走らされ、頭の中が驚きやら戸惑いやら疑問やらでいっぱいだった。

しばらく走っていると、自宅が目に入る。少し落ち着きを取り戻して、省吾はようやく走るのをやめた。
手を見ると、みすずの手を握っているのが目に入る。ツブレビルの時と違い、今度はちゃんと彼女を引き連れてこれたので、素直に良かったと思えた。
怒られないで済むし。

「ねえー、何だったのよもうー!?」

息を切らしながら自分をじわりと睨みつけるみすずに、家に帰ったらゆっくりと説明してやろうと省吾は考えていた。


End

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せっかくの分かりやすいタイトルなので、ホラーっぽい話にしました。
捏造設定バリバリですみません。省吾が見える子だったら面白いかなと思いまして。
あと、ゲームで幽霊に遭遇した際にあまりの怖さにみすずをほっぽって逃げ、後で鬼のような形相でゴルァされたというヘタレ丸出しの黒歴史(笑)が省吾君にはあるので、汚名返上させておきました。



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