「みすず」

「あ、遅いわよ」

公園の中に入ると既に待ち合わせしていた相手、みすずがいた。省吾は彼女のそばに駆け寄る。

「ごめん。でもさすがにこの時期じゃ親の目がうるさくて……」


空を見上げて



夜も遅くに省吾は家を出る。行き先は5分程歩いた所にある公園だ。

受験も近づくある冬のこと。突然みすずに呼ばれ、省吾は夜の公園に足を運ぶ事となった。
受験が迫ってる事もあり、こんな夜更けに息子が出掛けるのは、彼の両親もさすがに良しとは思っていないのだろう。

「でもさ、どうしても省吾に会いたくて」

みすずは大学に行くのを早々に断念し専門学校に進路を決めていて、省吾に比べれば負担も軽いという事もあり、この時期のこんな時間帯に彼を外に呼び出そうという気持ちに至ったのだろう。
省吾は彼女のそんな我がままを多少しんどいと思いながらも、きちんと受け止めているのだ。それはやはり、みすずが好きという感情に支配されているからなのだが。

「いいよ、僕も君に会いたかったから」

「ほんと?」

「うん。息抜きにこれくらいはいいよ」

自分の我がままを受け止めてくれる省吾はかっこいいとみすずは感じる。それに実際、付き合い始めてから段々男らしくなってきた気もする。
みすずはそう思うと嬉しくなり、省吾に抱き着いた。

「省吾、なんかかっこいい」

「え…、そうかな…?」

抱き着かれ、かっこいいなどとあまり聞き慣れないことを言われれば、省吾は気恥ずかしくて顔が赤くなる。

「やだ、あんた顔が赤いわよ。照れてるの」

「だって……」

「まあいつもは頼りないもんね、あんた。どこか抜けてるし」

先程の言葉と打って変わって、今度は頼りないと言われ、省吾はがくっと頭をうなだれる。
まあ確かに彼女の言う通りなので否定はしないが、ちょっとだけ傷付く。

「…持ち上げてから下げるなよ、もう……」

「あは、それもそうね、ごめん」

省吾が嘆くと、みすずは素直に謝り彼の頭を優しく撫でた。

「ねえ、一緒に星見よう」

「うん」

そして、頭を撫でながらみすずがそう口にする。元々彼女が省吾をここに呼んだのは、一緒に星が見たいからという事だった。
二人は近くの石段まで歩き、そこで腰をおろす。そして空を見上げた。

「今日は晴れてるし、空気も澄んでるからよく見えるね」

「そうね」

空にはいくつもの星が瞬いている、それを寄り添いながら見上げるみすずと省吾。

「ねえ、省吾。ちゃんと大学合格しないとだめよ」

「分かってるよ」

「…………でもそれには、こんなとこで星見てる暇があったら本当は勉強した方がいいのよね。…………何かごめん、無理に呼び出して」

「いいってば、息抜きになったから」

みすずはあまり先の事を考えずに突っ走るので、今こうして話している最中に省吾の大事な時間を割いているという事にようやっと気付き、彼に謝るが、省吾は寛容に受け止めてくれる。
やはり昔と違って、どこか余裕が出来たなとみすずは思った。

その後、しばらく星を眺め、だいぶ体も冷えてきたので公園を出る。

今度は受験が終わった後に星を見に行こうと約束を交わし、この日は別れた。


End

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土手が近くにあるのですが、夜になると石段付近で仲良く座ってダベってるカップルを見かける事から思いついた話です。みすずと省吾もこんな感じでダベってそう、という感じで。
今回の話の舞台は公園ですが(笑)。



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