制服
着慣れた制服に袖を通す。
「(……これを着るのも今日で最後か)」
学ランのボタンを留め終えると、省吾は自室から出て居間に入る。
「母さん準備できた?」
居間にはスーツを着た母親が出掛ける支度をしていた。省吾は母に声を掛け、尋ねる。
「母さんはできたけどあんたは大丈夫?」
「うん、僕はもう大丈夫だよ」
お互い準備が済んだので、揃って玄関に行き靴を履き終えると、家から出た。
「それにしてももう卒業か、長いようで結構早かったかもね」
「そう?」
「そうよ。子供ってあっという間に成長しちゃうんだから」
「そうかな?」
「そうなの。ねえ、大学行ったらちゃんと頑張るのよ」
「分かってるよ、せっかく第一志望のとこ受かったんだから」
そんな会話を重ねながら、省吾と母は学校までの道のりを歩いていく。
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「あ、省吾〜」
校門近くまで来ると、みすずと彼女の母親が歩いているのを見つけた。みすずも省吾達の姿を見つけたようで、手を振り彼の名を呼ぶ。
「みすず、おはよう」
省吾は牧原親子に近付くと声を掛けた。
「おばさんもおはようございます」
「おはよう、省吾君」
お互い挨拶を交わし、校門を通り抜ける。周りには自分達同様、生徒やその父兄達で賑わっていた。
みすずと省吾は親と別れ、下駄箱で靴を履き替えると教室に移動する。教室にはクラスメイト達がいる、彼等とももうお別れかと思うと省吾は寂しさなどが込み上げてきた。そして、しばしクラスメイトと話をしていると、担任がやってきて体育館へと移動する時がきた。
いよいよ卒業式が始まるのだ。
式が始まり、泣き出す者も出てくる中、省吾は泣きはしなかったが終わりに近づくにつれ、寂しさが増してくる。
そんな中、式は無事に終わりを告げた。
担任やクラスメイト達との最後の別れを交わした後、みすずと省吾は再び親と合流する。
その後、4人でお祝いがてら少し豪華なレストランで昼食をとってから、省吾と母は牧原親子と別れ、帰路に着く。
自室に戻り、ベッドに腰掛け貰った卒業証書を入れ物の中から取り出して広げてみると、三年間の思い出が蘇ってくる。高校生活は楽しい事が多かった気がする、振り返ってみてそう感じた。
そしてしばらく眺めてから元に戻し、立ち上がると制服を脱ぐ。これももう着ることはないんだなと思うと再び寂しさが込み上げてきた。今までで一番強い寂しさが。
省吾は脱いだ制服をハンガーに掛け、ほんの少しだけ泣いた。
End
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卒業式の話です。
こんな感じだろうなと書いてて容易に想像がつきました。
因みに、牧原家と福永家は家族ぐるみでの付き合いをしています。
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