どうしてこうなった。
俺は今日の出来事を思い返す。
いつものようにノミ蟲を見つけ追いかけブチ殺そうとしたところで邪魔が入った。
どこのチームだか知らないが、売られた喧嘩を買って暴れたせいで、女が一人怪我をした。
セルティの友達で、俺も見たことのあるメガネの子だった。
駆けつけたセルティの勧めで新羅の治療を受け、流れで一緒に茶を飲んでいた。
新羅の注いだお代わりを飲んだところで急激に眠たくなった。
うとうとしたところで、ごめん急ぎだからと腕をとられ、何故か注射された。
なにをするんだと聞くと、今からアレが来るという。
もう間に合わない、鉢合わせは困ると言われ、セルティや怪我させた女の手前我慢できるかと言われればたぶんできない。
俺はこの愛の巣を守る!と意気込む新羅。そしてセルティにまで押さえられ、薬をさらに追加、追加、追加。
おまえら人をなんだと思ってるんだ。
普通の針じゃ折れるからと俺専用のを作ったという注射器も何本か折れてあきれられた。
さらにうとうとしてきた時にノミ蟲の声がして、新羅が治療してる隣の部屋で、セルティの影に押さえられたまま、意識を失った。
で、今に至る。

目を覚ますと何故か同じベッドの中にノミ蟲がいた。
なんの嫌がらせだよ。
むくりと起きてガシガシ頭をかく。
ノミ蟲はピクリとも動かない。
「おいノミ蟲」
軽く小突いてノミ蟲をベッドから転げ落とす。
ゴトンと床に落ちてもまったく動かない。
腕と足にはぐるぐる巻きに包帯が巻かれている。何故かパン一。
死んだ振りだろうかと髪を掴んで持ち上げてみるが、本当に死んだように動かない。
まあ動こうが動かまいが殺すことに変わりはない。
手を離すと床に頭が落ちてまたゴツとにぶい音が部屋に響いた。
さらに足で何度か小突いてみるが一向に動かないので、とりあえずタバコでも吸おうとポケットをさぐり、灰皿を探していると、枕元にメモ用紙を見つけた。
新羅からのメモだった。
どうやら臨也も薬を盛られたらしい。
ただし新羅の思惑とは違い、俺が先に目覚めてしまったようだ。
俺は一服して落ち着くと、床の上の臨也を持ち上げ、適当にベッドに転がし部屋を出た。

リビングもなにもシーンとしていた。
時計を見るとまだ7時だ。
一応新羅とセルティに声をかけてみるがもういないらしい。
テーブルを見ると朝食が二人分あった。
こっちにもメモが置いてあり、こちらはセルティが用意したらしい。
あいつは本当にいい奴だ。
サンドイッチを少しだけつまんで考える。
今日は休みだ。最初から今日はのんびりしようと決めていた。
以前泊まったこともある勝手知ったる他人の家で、どうせしばらく帰ってこないだろうとシャワーを借りた。
汗を流してさっぱりして、下だけ穿いてペタペタとリビングに戻り、朝食を頂く。
腹が減っていたので臨也の分もたいらげてやって、また一服した。
灰皿がリビングにはなかったのでさっきまでいた寝室にまた戻り、ベッドに腰掛けて煙を吐き出す。
もしかして灰皿は俺のためにここに用意してくれたのかもしれない。
臨也は部屋を出た形のまま転がっていた。
いつまで寝る気だよ。
窓の向こうはいい天気で、カーテン越しに朝日が見える。
朝日に照らされた臨也を見下ろす。
人形のように身じろぎひとつしないが、かろうじて息をしているのが分かる。
無駄に整った顔だ。
ほっそい体に包帯して、包帯部分以外にもいくつか傷があって、なんだかアンバランスだ。
怪我が似合わない、とでもいうか。
忌々しいこいつが傷だらけというのはとても好ましい状況であるのだが、だからこそイメージが違って調子が狂うというか。
見苦しい。
そう思った。
だから、とりあえずシーツを引っ張って、胸の上まで被せてみた。
これでよし。
そういえばこんな間近でこいつを見ることなどあまりない。
腹立つからここまで近づく前に何かぶん投げてるからな。
珍しいのでこの機会にまじまじと顔を観察してみた。

黙っているなら我慢できるなと思った。
喋ったり、あのいやらしい笑顔がないなら、我慢できる顔だ。
ほんとこいつ死ねばいいのに。
死ねばずっとこういう顔になんだろ。
頬をつまんでみる。臨也のくせに思ったより柔らかい。
いや、人の頬ってこんな柔らかいのか。
そういえば誰かの顔など殴ったことはあっても触ったことなどないと気付いた。
ぺたりと今度は掌で触ってみる。
ふむふむとそのやわい感触を確かめながら額をペチペチと叩き、こうまでしても目を覚まさない臨也にちょっと笑みがこみ上げた。
髪の生え際から指を差し込んで髪の感触を確かめる。
根元はさらっとしてるのに毛先はごわついたワックスの感触がした。
ワックスをつける前の髪触ってみてーな…と思ってしまったところでサアーと血の気が引く。
な に を 考 え て い る ん だ !
ドンと臨也の体を突き飛ばし、目をそらして深呼吸をする。
なにを考えているんだ、何を!
これはあのノミ蟲だぞ?今すぐ殺せ。今殺しておかないとまた後悔することになる奴だぞ!
目をそらした先にあのメモ用紙が目に入る。
そうだここで殺しはまずい。
殺すのはいつでも出来る。
だってここにこいつは転がっているんだから。
どこにでも引きずっていって殺すことができるんだから落ち着け俺。
と、もう1本、タバコを銜える。
半回転してベッドの端でうつぶせになったノミ蟲を横目に煙を吸い込み吐く。
あーマジでしゃべってないなら隣にいても耐えられるのに。
ごそごそとベッドに足を乗り上げ横になる。
二度寝…いやいや、そこまではするまい。
ベッドヘッドに背を預け、タバコをふかしながら、今日なにしようかと俺は考えた。
今日はのんびりしようと決めていた。
メインデッシュの臨也抹殺以外の予定を考えていると、臨也の瞼が動いた気がした。



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