「友達になろうシズちゃん」
「………………………は?」

食事を終え、さて一服でもしようかと思っていた俺に臨也は言った。
手にしたタバコから顔を上げると臨也と目が合った。
見つめ合うこと数秒、ぽかんとする俺にくらべ、真剣な顔をした臨也が頷く。
「そうだよ友達だよ。そうしよう。それがいい」
「………ちょっと待て」
俺はタバコを戻し、臨也に向き直った。
首をひねり、しばし考え、ポンと手を打つ。
「そうか、友達から始めたいってやつか。テメェ顔に似合わず純情とかふざけてんな」
「あれ?ケンカ売られてる?いやそうじゃないよ。友達から、じゃなくて、友達になるんだよ。ずっと友達。最高ランクは親友まで。ジョブチェンジ不可」
「いやだ」
「即答!?」
キスまでしといて今更友人になれるか。
俺はすでに臨也にそういう意味で欲情できる自分に気付いている。
残念ながらそれは今現在もだ。
友人にはそういう感情は抱かない。
よって友達一択は認められない。
「早まるなシズちゃん。だって俺だよ?俺と付き合いたいとかありえないでしょ?」
「ああ?テメェこそいい加減往生際の悪ぃ奴だな。まだんなこと言ってんのか?」
「だから!勝手に俺を分かった風な口きくなってば!!」
食べきった皿を手に掴んだ臨也だったが、一呼吸置いてそれをテーブルに戻した。
「そうだ切れちゃいけないシズちゃんじゃあるまいし落ち着け俺ファイト!」
臨也はぐっと拳を握ると肩の力を抜き、ニコッと口元に笑みを浮かべた。
「ごめんねぇ〜実は俺シズちゃんのこと信用できないんだよね。てゆかシズちゃんのそれ勘違いだからさ。いや、うん、責めてる訳じゃないよ?ホラ、シズちゃん恋愛経験ないからしょうがないよ〜」
「あ?」
笑顔でそんなことを言い出す臨也にピクと額に青筋が浮かぶ。
「何言ってんだテメー」
「俺を好きだなんてシズちゃんの勘違いだって言ってんの」
「勘違いじゃねえよ」
「じゃあ俺を好きになった理由言ってみなよ」
顔は笑ってるのに笑ってない目で臨也が俺を見ている。
俺にこいつの嘘は通じないが、俺の嘘もこいつにはきっと通じないだろう。
臨也を好きになった理由。
言えば反撃の理由となるのは分かっているし、どうせ誤解しやがるだろうな。
ああくそ、めんどくせぇがしょうがねぇ。
「テメェが俺を好きだと言ったからだ」
「ほらね!やっぱり!それって俺じゃなくてもいいよね!好きだって言ってくれるなら誰でもいいんだよね!ああ良かった!大丈夫シズちゃん!俺以外にもいるから君でも好きって言ってくれる人!だってシズちゃんイケメンだし卵も片手で割れるしね!あ、そーだ合コン設定してあげるよ!まかせてよ俺そういうの得意だからさ!」
鬼の首でも取ったかのように騒ぐ臨也に俺は深い溜め息を吐いた。
キレねえよ。そんな傷ついた顔して笑われてもな。
「合コンしてもいいが、俺が選ぶのはテメーだから」
「はあ!?シズちゃんバカ!?てか俺は参加しないし!!」
「じゃあ俺も行かねーよ」
ぐっと臨也が言葉につまり、はがれそうになる笑顔を戻そうと変な顔になっている。
ついそれを鼻で笑うと、臨也の額にも青筋が浮かんだ。
「あれえ?なんかムカつくなあシズちゃん。勘違い野郎のくせに。俺がせっかくここまで譲歩してやってるのになにその態度」
「どの部分が譲歩だよああ?いいからテメーは黙って俺についてこい」
「……は?はあ!?何それ全然かっこよくないし!何様だし!いい加減目を覚ませよこの童貞!!」
ビシリと俺の額にも青筋が追加された。
おい俺にここまで言わせておいてそれが返事か死にてーのか?
新羅の助言通り、臨也のクソ問答などには付き合わずそろそろ実力行使に出るべきか。
俺は臨也に掴みかかりたくなった右手を左手で押さえた。
これでこの前みたいに泣かれたり、臨也がぶっ倒れてふりだしに戻られても敵わない。
俺は深呼吸して、キレるのを堪えた。
思えば臨也とこうして会話していることが今までじゃ考えられないことだった。
殺し合いじゃなく会話を。
それが俺が化け物じゃないという証拠となる。
まだいける。俺ならやれる!俺はまだ努力できる!
そう心で唱えながら、必死で笑顔を作る臨也にならって俺も笑顔を浮かべた。
「俺が勘違いしてるって勘違いしてんのはテメーだろなあ臨也君よお」
「やだなあ、シズちゃんじゃあるまいし俺は勘違いなんかしないよ」
「どうすりゃ信じるんだテメーは」
臨也は苦笑交じりにヘラヘラして言った。
「あのさ、勘違いでも好きになってもらえて俺嬉しいからさ、だから友達になろうよ。勘違いはその内気付くから大丈夫!彼女でもできたらすぐだって」
「彼女ができなかったら認めんのか?」
臨也はさらにニコ〜といやらしい笑みを深くする。
「絶対できるよ俺が保証するよ〜」
だから、そういう顔して泣きそうになんなっつーんだよ。
俺も笑顔を浮かべてはいるが内心はムカついたままだった。
俺を試しているだけじゃなく、本気でそう思って言ってるならこいつは相当のバカだ。
こんなバカと付き合う俺もバカなんだろう。
「よし分かった。じゃあ期限決めるか。俺に彼女ができなかったらテメェが俺と付き合う、ってことで」
「は!?」
臨也の目が丸くなる。
引き攣った笑顔で何言ってんのと言われるが、俺はその臨也の手を引き、小指を絡めた。
「約束な。破ったらテメェは針を千本飲んだ上で責任とって俺と結婚しろ」
「んな!?いや意味分からん!!てか何の責任!?」
「テメーが保証するっつったんだろが。保証人ってのはそういうもんだろが」
「はあ!?いや、そっ、んな、ええ!?」
「で、期限だが、1ヶ月、だな」
「待て!短い!そういう意地とかで我慢できそうな期限は却下!」
「チッ」
赤くなったり青くなったり忙しい臨也は、それでもさすがに簡単には流されてくれず、バッと空いてる手を広げて俺に突き出した。
「5…5ヶ月か」
「5年!!」
「ふざけんなよクソノミ蟲が!5年も我慢できるか!」
「我慢すんなよ!彼女つくればいいだろ!」
「半年だ」
「4、いや3年で!」
「半年だ」
「ちょっとは譲歩しろよ!…い、1年!!」
「1年な。分かった」
「ち、ちくしょおおおおお!!」
商談成立と小指を上下に振ってやると、本気で悔しそうな臨也が叫んだ。
正直1年ですらふざけるなと思ったが、焦っている臨也がおもしろいので少し溜飲が下がった。
1年間、俺に彼女ができなかったらコイツは俺と付き合う。
つうか今までいなかったのに1年でできるかよ。
指きりしながらニイと笑ってやると、臨也は青ざめた顔でそれでも口元に笑みを浮かべた。
本当にこいつはどこまでも…。

「じゃあ1年間は友達で我慢してやんよ」
「もう好きにしろよ…」

はは、と笑いつつぐったりした臨也に、手を出さず話し合いで勝てた気がした俺は、とりあえずその後うまいタバコが吸えて満足した。



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