見渡す限りどこもかしこも純白な世界。普段よりも近く感じる空の色さえも飲み込んでしまうような、そんな白。高低さのある斜面を吹き抜ける風の音しかしない中、静雄ハウスよりも少し上に登った所に臨也は立っていた。そして、静雄ハウスをすぐ出た所で臨也を見上げながら仁王立ちする静雄。

「さぁ、覚悟は良いかな…シズちゃん?」

「あぁ?そりゃ、テメェだろ?いーざーやーくん?」

インカムによって話す声は鮮明に聞こえても、その表情は見えない2人。だがその声色や口調はとても楽しそうだ。

「安心してよ、シズちゃん。雪に埋もれて死んでも、春までは腐らないからさ。」

「あぁ、テメェが死んだら永久氷壁に埋め込んで飾ってやるよ。」


『戦闘開始だ』と、静雄がニヤリと笑った。






かつて池袋で戦争をしていたように、この山に住むようになってからも度々こうして対峙している2人。今回は「雪合戦」だ。ただ一般的な雪合戦とはかけ離れているけれど。

足下から物凄い勢いで飛んでくるのは雪玉というよりは氷塊だ。砲丸の玉がいくつも飛んでくる中、稀にボーリングの玉が混じってくるのが性質が悪い。静雄にそのつもりは無くても、一回ギュッと握るだけでそうなってしまうのだから仕方ないだろう。

それを避けながら応戦する臨也が投げる雪玉は…、

「てっめ、石やナイフを入れ込むんじゃねぇよ!」
「えーーシズちゃんにそんな事言われたくなーい。」

危険いっぱいの雪玉で、器用にも静雄の行動を先読みして狙って狙って襲ってくる。


そんなこんなで一歩間違うと大怪我確実という、この2人にとっては当たり前の戦争遊戯を楽しむ中、臨也にしては珍しく雪に足を滑らせた。

「うっわ…って……あ…。」
「あっ……やべっ。」

傾く身体に迫るのは2つの氷塊。間の悪い事に丁度頭や顔に一直線に飛んできた。

静雄は「あーこりゃ臨也死んだな。」と思った。

臨也はせめて直撃は避けようと身を捩る。

それでも間近に迫った氷の弾丸に間に合わないっと、目を閉じて大きく襲うであろう衝撃に身構える。「シズちゃんっっ!!!」「臨也っ!!」

ガシュッ
 ザシュッ

氷の塊がぶつかる大きな音が響き渡る。…が、臨也の身体が吹っ飛ぶ事はなかった。

「あ…れ?痛く…ない。」
おそるおそる目を開く。すると目の前に広がっていたのは眩しい程に煌く金色だった。
「え……何…?」シズちゃん…??




「……ほぅ…やるじゃねぇか…………ベル。」

「えっ?」

インカムから聞こえるシズちゃんの楽しそうな声、その声が発したあり得ない名前に驚いた。
もっと驚いたのは…目の前に輝く金色が、本当に翼を広げたベルだったからだ。
ちょっと…シズちゃんとダブったのは…秘密だ。

「え…なんで…ベルが俺を…?」

シズちゃんの事が大好きで、俺とは喧嘩ばっかりしてて、そんな俺を助けるなんてそんな事…絶対するハズないのに。
それでも、俺の前にベルが居て、シズちゃんが握り固めた氷塊を両足で1個ずつ受け止めていた。そしてその足にグッっと力を込めて、パァーーーーンと音を立てて氷塊を握り潰した。
その挑発ともとれるベルの態度に、シズちゃんは笑い出す。

「ククク…そうか…、判った。お前は…そっちに付くんだな?」

「そうか、そうか……それじゃぁ…本気出しても良いってこったなぁ?あぁ?」

そう言って投げられた雪玉は、やっぱり氷塊になってて、あまりのスピードに風圧で削られて、本当に本当にあり得ないんだけど…ツララが襲ってくるようなものだった。さっきまでとは格段に違うスピードと殺意。本気モードのシズちゃん。

「うっわ!ちょっ!危なっ!これは危ないって、シズちゃん!」
洒落にならないとインカム越しに文句を言っても、
「…平気だろ。」
っと、聞く耳を持たない。何が平気なんだ、ホントに殺す気?っと目の前に迫るツララに身を伏せる。っと、パッキーーンとツララが折れ落ちる音がした。
「うっわ…。」
またも俺の目の前に黄金、ベルがその翼でツララを弾き落としていた。

「ベルはテメェに付くみたいだぜ?」
「…頼んでないんだけど。」
「ほぅ?俺に付くように言うか?」
インカム越しでもニヤリと笑ったのが判った。



「っ冗談!!このまま続行だよっ!」
怒鳴るように言って、足元の雪玉を転がす。斜面を転がるうちに大きくなって、シズちゃんの動きを少しでも鈍らせてくれたり転ばせてくれたら良い。

「ベル、これ持ってシズちゃんに空襲して!」
「ピギャァァッ」

使えるものは何でも使う。ベルがどういうつもりで参加して、俺に付くのかは判らないけれど。
バケツいっぱいの雪玉を、もちろんバケツごと持って向かうベル。シズちゃんもそんなベルに向かって弾丸のように氷塊を投げつけている。ベルに気を取られてるシズちゃんに向かって大量の雪玉を落としたり、ナイフを投げたりする俺。上からと足元への攻撃にシズちゃんもさっきまでの余裕は無くなったのか、インカムから話しかける事がなくなった。けれど、すっごく楽しんでる。俺も、楽しい。バケツに雪玉を入れるのが面倒になったベルが雪をそのまま入れてシズちゃんの頭に振りまいたり、シズちゃんの投げた氷塊が当たって吹っ飛んできたベルが俺に衝突してそのまま雪に埋まったり、避け切れなかった弾丸はさらりとベルが盾になって、物騒だけど、遊んで遊んで、本気で急所狙って、骨くらい折っても良いよねって、そんな遊びを楽しんだ。

まぁ、気に入らないけど、最初に体力が無くなるのは俺で。あぁ、もう駄目だーと思ったから、雪玉一個持ってシズちゃんの元まで駆け下りた。ベルもそれに習ってシズちゃん目指して一直線に飛んでくる。シズちゃんは、そんな俺達をいつも両手広げて受け止めてくれた。右腕で俺、左腕でベル。ぎゅっと抱きしめて、「お前らやるなぁ。」と笑った。その後、持ってた雪玉をシズちゃんの顔にべしゃあと叩き付けたら、良い度胸だって地面に埋められた。…酷いなぁ。





そして、そんな精一杯喧嘩遊びをした夜。
2人は仲良く露天風呂。

「…ベルは?」
「よっぽど疲れたんだろ、もう寝てた。」
「へぇ…。……ねぇ、何で俺に味方したのかな。」
本当に意外だった。最中も俺の指示通りに動いてたし、普段じゃ絶対考えられない。

「お前なぁ…自覚ないかもしれねぇけど、お前ら結構仲良いぞ?」
「はぁ?何それ、あり得ないね。あんなバカ鳥。」
ツンとそっぽを向くと溜息を疲れた。

「まぁ、良いけどよ。…でも、良かっただろ?」
「……ふん、アレが居なくたって……まぁ…便利だったけど。」
「じゃぁ、次は最初から連合してきやがれ。」
「何それ、ハンデのつもり?要らないし。」
「この山じゃ、お前のパル…何とかってのも使えねぇだろ。逃げ切りもねぇし。」
「………。」
「そういうこった。ベルもその辺判ってんのかもな。」


それじゃ、そういう事でっと、静雄が隣の臨也を引っ張った。後ろから抱きしめるように前に座らせ、自らの両足でもって臨也の足を大きく開かせる。

「ちょっっと!何すっ…んっ。」

片手で胸の飾りを、片手で太ももの内側を、悪戯に撫でながら耳元に口を寄せる。

「思い切り子供と遊んでやって、その子供が寝た後を見計らって親がするこたぁ…決まってるだろ?」
「さぁ…今から『大人のお遊び』と洒落込もうじゃねぇか。」


インカム越しも悪くねぇが、可愛い声は直接聞かせてくれよと、甘く囁く。
存分に啼けと、意地悪に囁く。
その声に、息遣いに、肌を這う指に、臨也は簡単に翻弄されてしまう。


空は満月、辺り一面の雪景色、眼下に広がる麓の家明かり。
その優しい光が臨也の白い肌を照らして静雄を魅了する。


「のぼせても良いぜ?てめぇはきっと雪の上でも映える。」
「こんの…ドSっ!」


言葉になったのはここまでで、後は湯の音と臨也の甘い啼き声だけが雪に落ちた。
























「ちょっとベル!シズちゃんを叩き潰す特訓だよっ!」
「……ピャ??……(ドン引き)」

「あんの…ドS変態スケベ……今度はあんな事できない位に殺してやるっ!」




「ピャーーー。(やってろ…)」



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