臨也に口内炎ができた。
最近また善からぬ事を考えてやがるのか、睡眠不足が原因だと思うんだが本人はストレスだ何だと非常に煩い。馬鹿が…臨也にストレスが溜まるんなら地球上の殆どの人間がストレスで胃に穴開けてるっつーの。
そんな些細な事で何か変わるかっつーと別に臨也が煩いだけで何も影響はない…はずだった。


「いったい!痛い痛い痛い〜っ!」

キスの最中に舌が当たったのか、臨也が両手を俺の顔に遠慮なく突っぱねて引き剥がしてきた。
「…何しやがる。」
「それはこっちのセリフだよ!口内炎だって言ったよね?触らないでよ!痛い!」
「チッ………どの辺だ?」
(今、舌打ちした?舌打ちしたよ、コイツ!)

眉間に皺を寄せつつも口を開けて見せた臨也を覗き込むと、確かに大小合わせて3つ程の白くなった患部が見えた。
「あ〜ここな。判った。」
「判った?絶対触らないでよ??」
「判った。判った。……ほら。」
そう適当に返しながら腰に回していた手に力を入れた。また突っぱねられても面倒なので今度は片腕を後頭部に添えて固定した。生憎とさっきの中途半端なキスじゃ満足できてねーんだよ。
「ちょっ…ヤメ……んぅ。」
両腕さえも抱き込まれて完全に身動きが取れない臨也は、身動ぎはしつつも舌を絡めてくる。さっき念押しをしたから大丈夫だと思っているようだ。
「ん……ふっ…。」
だが、何度も角度を変え深さも増してくると夢中になって…またどちらかの舌が患部に当たってしまったようで…

「っ!!」

とたんにビクンと跳ねる身体。しっかりと抱き込んでいるから離れはしなかったが振るえはしっかりと伝わった。同時に身動きできない臨也は口を閉じにかかり、俺としてはまたも途中で抵抗されてイラッとキた。
だからというわけでも無いんだが…


 れろっ

「っ!〜〜っ!!!」


舐めてやった。口内炎の部分を。
腕の中でビクンと震える身体に気分が浮上する。舌でなぞる度にビクビクと跳ねるその反応に…なんだ…その…こう…クるもんがあるだろう、男として。

そんな反応をするから悪い。
涙目で睨んでくるから悪い。

そのまま、跳ねて震える身体を充分に堪能して味わった。






「口内炎が治るまで、絶っっっ対にちゅう禁止だから。」
「あぁっ?!」
「破ったら家出してやるから。」
「なっ!?」

気を失った臨也が覚醒して1番に言い放ったのがコレだった。


マジかっ!




* * * * *




「何とかしやがれ。」
『…1週間キスもエッチもしないで臨也をぐっすり寝かせれば治るんじゃない?』
「んなの無理だな。さっさと治せ、診察しに来い。」
『何様っ?!あのねぇ、そんなのでいちいち呼び出さないでよね?!』
「そんなのって何だぁ?こっちは緊急事態なんだよっ!」

『バカバカしい!あ〜……蜂蜜でも塗っとけば早く治るんじゃない?』
じゃぁね、もうそんな事で電話なんかしてこないでよね。
そう言って一方的に切られた電話に殺意を覚えるが、今はそれよりも優先する事がある。



「蜂蜜か…。」






静雄の山にはゴキブリやムカデ等の害虫は存在していない。が、蟻や蜜蜂は住居(?)を認められている。森を探索していた頃に蜂の巣を見付けた静雄がセルティにどうしたものかと相談したところ、花の受粉に役立っている事もあるから除去するのは止めておいた方が良いとの事だったので(静雄が刺されるという心配は皆無だという事も考慮した)「そんなもんか」と納得したのだ。その瞬間こそ蜜蜂がこの山で生活する権利を得た時である。ちなみに「家の中に入ってきたらウゼェけどなぁ。」という静雄の呟きにより、虫たちの中での掟として『神殿への侵入不可』というのが絶対的となっている。また「頑張って働いて畑や花を潤して貰わないとな。」という呟きで、本来なら働かない蟻・蜂が何割か存在するものなのだが、この静雄の山に生息するものに限っては10割・100%が黙々と働いている。これに就いてこれない固体は山を去る事になり、結果として山には強靭な精神と身体を持つ個体だけが残る。こういう事もあって主な天敵の居ない蜜蜂や蟻が大量に増えていくという事はなく、少数精鋭な昆虫達の手足で山の土壌と花木は潤っているのである。


そんな蜜蜂の巣の前、片手にガラスの空き瓶を持った静雄が居た。

極稀にハニートーストを作る静雄の蜂蜜の収穫方法は特殊だ。熊のように巣を壊すわけでもなく、
巣に指を突っ込んでかき出すわけでもない。おそらく世界でただ一人、静雄だけができる技。

コトッ
巣のやや下に瓶を置くだけである。

そうして暫く見つめていると、巣からドロリと蜂蜜が溢れ出て瓶の中に落ちていった。蜂たちが細心の注意を払って作成・押し出した不純物ゼロの超純粋蜂蜜だ。周りに咲く様々な花の蜜を絶妙なブレンドで配合された蜂蜜は色・味・香りが独特で、臨也が「これ蜂蜜?ホントに?」と驚いた程だ。尤もその後すぐ「シズちゃん!静雄養蜂場だよ!これは売れるよ!凄いよ!」と力説したにも関わらずスルーされていたのも記しておこうか。

「こんなもんか。」
溢れ出た蜜が全部瓶に入ったのを確認して静雄が瓶を持つ。これで全く手を汚す事なく、蜂に襲われる事なく、蜂蜜の収穫が終了したのである。ちなみに静雄はこれが普通と思っていて、蜂が不要になった蜂蜜を巣から吐き出すと思っている。自分はいつも運良くその場面に出くわすな…と。
随分前に蜂の巣を見ながら「中身どうなってんだ?」なんてぼんやり考えていたら、静雄の視線に耐えられなくなった蜂たちが貢物にと蜂蜜をドロリと出したのが始まりだったので、仕方ないのかもしれないが。
そしてその収穫方法は変わる事なく続き、蜂たちは自分の子孫と山の神の為に今日もせっせと働くのだ。




* * * * *




「おら、口開け。」
「いきなり何?」

お互い風呂も上がって後はもう寝るだけという時、携帯を弄る臨也に静雄が声を掛けた。今朝から1度もキスをしておらず、自分から言い出したとはいえ物足りない思いに駆られてイライラしている臨也の返答は反抗的だ。まぁ、いつもの事なので静雄は全く気にしないのだが。

「薬だ、薬。塗ってやるからこっち来て口開け。」

そう言って丸太椅子に座って臨也をひょいと担ぎ、難なくチェアに軽く放り投げた。

「……ちょっと。シズちゃん……。」
反動で揺れる椅子に揺られながら睨みつける。当然だ。このチェアは静雄が臨也に贈った椅子で、臨也のお気に入りだ。そしてそこに座った臨也が椅子から離れるには『静雄のキスと抱き起こす』というのが2人の暗黙のルールなのだ。
が、今はキス禁止令が出されている。自分で言い出した手前もあって今日は座らないようにしていたのだ。


「何、治るまでキスは禁止だっ「治療だ、治療。キスじゃねーよ。」

そう瓶からひとさじ蜂蜜を掬いながら目を細めて笑った。

「ちょ、まさか…だよ…ね?」
「さぁ…な。」

そのまま静雄は自らの口に蜂蜜を含んで臨也に覆いかぶさった。舌先に蜂蜜を乗せて優しく口内炎患部に塗りこめる。

「ぅん…ぁあ…。」
痛いような痺れるような刺激はたった1日だけだがキスに飢えた身体を震えさせる。最初から抵抗もせずに臨也の両手は静雄の首に回された。
ひとさじ分を塗りこめるのにはそう時間は掛からず、ペロリと唇をひと舐めしてから離した静雄はごく近い距離のまま臨也をニヤリと覗き込む。



「どうだ?…まだ治療、続けるか?」






極上の味と香りを誇る薬を使った治療は、やがて口内だけでなく全身に施され朝まで続けられたのだった。翌日臨也はずっと眠り続け、起きた頃には口内炎の痛みは消えていたという。








そして臨也はダイニングに蜂蜜の香りが残っている間中、顔を赤らめたり、脳内で算盤を弾いたりしていたとか。


チキチキチーーン
「シズちゃん!絶対うちの蜂のローヤルゼリーって効果抜群だよ!売れるよ!」
「何だそれ。」




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