「もう行っちゃったよ。」
新羅の合図でセルティがロフトから降りてきた。どうにも盗み聞きするのが躊躇われ、自らの影に引き篭もって新羅からの携帯メールをひたすら待っていたらしい。
同時に裏口から門田と六条が顔を出した。
「ギリギリ間に合ったようだな。」
「疲れたーーっ!何っで俺がテント張りなんざ手伝わされるんだよ…。」
「遊馬崎や狩沢達がスパコミだか何だかいうイベントに行っちまってるもんでな。」
「………。」


田中トムが「最高に格好良い服着て、甘い台詞で囁いて、トロトロのメロメロにしてやれ」と焚きつけた。

平和島幽が「兄さんは普通の服も良いけど、こういう服のが際立って似合うと思う。」と衣装を送った。

狩沢と遊馬崎がすぐに衣装変えが出来るように衣装に手を加えてくれ、小物やアクセサリー等を揃えてくれた。

門田と六条(予定外)が静雄達が今夜を過ごすテントを半日以上掛けて作り上げた。

セルティが影ながら(時には影で)静雄の衣装変え等を手伝った。


新羅は特別何もしていない。



静雄も自分は特別な事はしていないと思っている。
貰った衣装を見て、ギャルソンなら飯を運んでやろう、カウボーイなら馬か何かに乗せてやろう、この軍服みたいなのって何だ??と、思っただけだ。
そして、その時その時に思った事を素直に声に出して告げよう。そう決めただけで特別な事をしたとは思っていないのだ。
甘い甘い言葉の羅列も普段照れて言えないだけで、顔を見る度に思っている事なのだ、ただ今日だけ「誕生日おめでとう」という言葉が付け加えられた。それだけだと思っている。



(臨也もたまんないね。)
そうクスリと笑って、新羅は皆をテーブルに促す。
静雄が腕を揮って作った料理は、今日を影で支えた皆に振舞われたものでもあった。
主役とシェフの不在な誕生会が賑やかに始まる。

「おめでとう」「あいしてる」

こう書かれた2つのケーキだけが…そっと冷蔵庫に残された。



* * * * *



後日談

「ちょっとアンタ!シズちゃんにAVの台詞をそっくりそのまま教えるの止めてくれる?」

「台詞だけじゃないよ!やっすいベタベタなシナリオとかも教えてんだろっ!」

「ほんっとに迷惑だから止め……って、何でだって!何でもだよ!うっさいな!死ね!」

「あぁぁぁっ!うっさい!うっさい!」

ブツッ   ツーツーツーーーー





「あっはっはぁ〜♪」
「?どうかしましたか?唐突に不可解です。」

「いやぁ〜何でもない、何でもないべ。」

仕事の合間に掛かってきた電話にも関わらず楽しそうに応対していた田中トム。
切った携帯電話をポケットに仕舞う際に彼の口元がニヤリと笑っていたのを見越して、臨也は机を叩き付けた。



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