ねぇ、シズちゃん。…本格的に絵をやってみない?



サラッと描いたラクガキが半端ないクオリティで、それを見た俺の脳内で瞬間的にさまざまな計算が弾き出された。
「あまり人前に姿を現さない幻の巨匠、静雄画伯!」
「静雄先生の絵を見る事ができるのは『静雄ミュージアム』だけっとかにしてさ。」
「静雄個展とかを開いて回るのも良いよね!あ、でもレプリカは作らない方向で。」
「静雄先生は本物志向ですって。違いの判る絵師、静雄……良いよね!」

チキチキチーーン♪
『静雄先生の描く人物画が見たい…いや、自分を描いて欲しいっていう依頼があるんですが。』
『静雄先生は人にはお会いになりませんので。』
『そんな、奈倉さん!お願いしますよ!会長はいくらでも出すとおっしゃってるんです。』
『まぁ…そういう事でしたら一度伺っておきますよ。』

『静雄センセ?っという事で仕事の依頼があるんだけど?』
『…んで、クソオヤジなんざ描かなきゃいけねーんだよ。』
『センセの描く人物画が無いからじゃない?あれだけ繊細な絵だもん、描いて欲しいんだよ。』
『人間は描けねーっつっとけ。』
『…嘘つきだね。』
『人間は臨也しか描く気がしねーっつっとけ…。』
『んっ…ちょっ……んぅっ……。』

うわぁぁぁ;ちょっ、何を想像してんだ俺は;違う違うそうじゃなくて、静雄画伯だよ。

「ね、シズちゃん。静雄画伯って良いよね、いけるよね。」
「……あぁ。」

思考に耽る臨也には自分を凝視する静雄に全く気付く事なくブツブツと呟く。
さっきから静雄の耳に聞こえているのは「静雄」という自分の名前だけで、一方的に喋っている臨也の話の内容は一切耳に入っていない。
あぁ…臨也がデレた…としか思っていない、商標とか販売とか全く考えていない、臨也の金儲け的話を自然にスルーする静雄だが、自分の欲望や本能には忠実なので…。

「静雄先生かぁ…。」
「……良いな。」

先生とか、画伯とか、そういうのがイケるとか言ってた…という臨也には勘違いも甚だしい思考でもって、今日いっぱい楽しみだ…と手を延ばした。

「あ、シズちゃんも判ってくれる?当たると結構デカイんだよね……って…シズちゃん?」

「ん?」

「俺は何で担がれてるのかな?俺はシズちゃんの「違うだろ?」

「はっ?」

「静雄、だろ?」

「…えっ?」

「今日はシズオの日なんだろ?」
「あ、そうだよ!ロゴを描いて送らなくちゃだよ!話が脱線してた!」
「ちょっ、シズちゃん下ろして!間に合わなくなるよ!」

「…だから、違うだろ?」
「もう!何がだよ!」
「シズちゃんじゃなくて、静雄って呼べよ。」

「はっ?」
「静雄って呼べよ。」

「もっ、耳元で…やめて…よ。」
「静雄の日だから、静雄って呼んでくれんだろ?だったら…。」





今からベッドの上でも俺の名前だけ呼んでろ…


…静雄…ってな








…まったく…この男は最初から俺の話なんて全然聞いちゃいなかったんだ。
静雄の日っていうのと、俺が静雄・静雄って言ってた事にだけ反応してんだよ、何この動物。
それに何だよ、この色気とヤル気…まだ昼なのに日付変わるまで離して貰えなさそうなんだけど;
あ〜ぁ、これはもう今日の登録には間に合わないな…。
次って何の記念日があったっけ…?


そんな俺の思考もここまでで。
静雄としか言わせて貰えない俺がどんな目に遭ったのかとか…
それに感けてどんな事を言わされたんだとか…




そんなの、静雄先生に聞いてよね!


(?…別に教えてやっても良いぜ?)
(ちょっ!死ねよ、死んでよ馬鹿!!!!駄目だからね!!!)











「……4/20…臨也がデレて静雄って呼んでくれる日……か。覚えとこ。」






そして後日、静雄ハウスには『静雄&臨也』という手作りの表札が掲げられたのだった。

「ちょっ……恥ずかしいからヤメ………シズちゃん…彫刻ってやってみない…?」



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