初めて臨也を連れて村に下りた時にも、速攻で興味津々なおばさんたちに囲まれた。
外から若い奴がやってくることが少ないからか、俺も臨也もここではおおむね快く受け入れられているようだ。
そしてそれは過干渉という形で俺たちを取り囲む。
別に悪い気がしているわけではないが、どう接していいのか分からず口数の少なくなってしまう俺と比べて、愛想の良い臨也はターゲットとなっていた。
しかし臨也は人のあしらいがうまく、どうやらどんな質問も押し付けもうまくかわしていたらしい。
そして臨也がかわしてしまうので、いつも主婦連に物を押し付けられてお土産を持って帰ってくるのは俺ばかりだった。臨也にはそのうち娘まで押し付けられるんじゃない?と嫌味を言われる始末だ。
しかしその心配はないと思う。
当初、俺は臨也のことを尋ねられて、さてなんと答えたらいいものか、と言葉に詰まってしまった。
なのでとりあえず、
「うちのが迷惑かけたら言ってください」
とか、
「うちのをよろしくお願いします」
とか言ってたら、しばらくして臨也は平和島の奥さんと呼ばれるようになっていた。
俺はたぶん悪くない。間違ってはいなかった、と思う。
「変に差別されるより全然いいし、見合い話持ってこられたりするよりマシだけどさぁ。シズちゃんはそれでいいの?俺が奥さんなんて噂されてさぁ」
「俺は別にいい」
「………」
臨也が黙ったので、俺はそっと臨也の横顔を窺った。
臨也はハンドルを握り締め、ただ前を睨んでいる。
「あー、それにだな、噂じゃなくて…イッテ!」
いきなり臨也が急ブレーキをかけたから舌を噛んだ。
「さーて、俺今日はシズちゃん特製の肉じゃが食べたいからお肉買ってこよっと!」
肉屋の前で車を止めた臨也はさっさと降りてしまった。
「…なんでニヤけてんだノミ蟲が」
俺は自分の作る煮っ転がしみたいな大雑把な肉じゃがより、臨也の作る肉じゃがの方が好きなのだが、あんな顔をされては仕方ない。
ガラス戸の向こうで肉を選んでいる臨也を車の中から見ながら、俺も緩みそうになる顔を手で覆った。

臨也の車のおかげで買い物をスムーズに終え、俺たちは山のふもとまで戻ってきた。
これ以上は車で進めないというところに建てた車庫に臨也が車を入れる。
外で待っていると、臨也はじゃーんと言いながらでかいソリを引きずって出てきた。
「どうしたそれ」
「シズちゃん専用特注ソリでーす。これで荷物運ぶのも楽になるでしょ?」
それは全長1.5メートルほどある長めのソリで、台車のように下にタイヤがついていた。
「山道ではタイヤ出して転がして、雪の上ではタイヤを引っ込めて引けるんだよ。便利でしょ」
臨也がそう言って荷物をソリの上に乗せていく。
荷物を固定するよう縛られたのを見て、俺がソリの先に付けられたロープを持って引くと、デコボコな山道をガタガタと揺れながらソリがついてきた。
確かに大きな荷物を運ぶのには便利かもしれないが…
「ちょっと不安定じゃねーか?ってなんでオメーまで乗ってんだ!」
「セット!ゴー!行け!シズちゃん!!」
振り返るとちゃっかり自分もソリに乗った臨也が拳を振り上げていた。
「ゴーじゃねーよ」
「だってリフトは駄目なんでしょ。だったらこれぐらいいーじゃん。買出しの荷物がある時はおんぶもして貰えないしさぁ」
「オメーなぁ…」
ハァと深い溜息を吐く。
別にちょこんとソリに乗って見上げてくる臨也がかわいいとか思ってねーから。
しかたなく俺はソリを引いて山を登り始めた。
雪交じりの山道は車こそ通れないが、セルティのバイクも走れるだけの幅をならしてある。
ガタゴトとソリを引いて森ゾーンを抜け雪原ゾーンに差し掛かると、臨也はいそいそとタイヤを収納して改めてソリにまたがった。
「フフフ…さあシズちゃん、ついにその力を解き放つ時がきたよ。犬ゾリなんて目じゃないよね。俺のシズゾリは世界一!!!」
「なんだシズゾリって」
俺はまた溜息を吐きつつも、ソリのロープを腰にまわす。
えーと確か今夜は肉じゃがだっけかぁ?なんでソリ引いて晩飯まで作らなきゃいけねーんだ?こんだけ働かされたらその後は期待してもいいってことだよなぁあ?
「飛ばされんなよノミ蟲が!」
ぐっとロープを持つ手に力をこめて俺は山を駆け上がった。
抵抗は思ったよりなくて、元より荷物の重さなど俺にはさほどの負担にはならない。
雪の中を走る。駆け上がる。景色がぐんぐん後ろに流れていく。
「シズちゃん最っ高ー!!!アハハハハハッ」
後ろから臨也の笑い声が聞こえてくる。
「すっご早ぁああああーイッテ!」
少しの段差でソリが跳ね、恐らく舌でも噛んだのだろう臨也の声を聞きながら俺は走った。

俺が喜んでソリを引いていると思うなよ。
別にただ、荷物を運ぶのに便利だから引いてるだけだ。
俺は車の免許もまだ持ってねーから、ソリぐらい引いてもいいと思っただけで、一緒に買い物したいと車を運転する臨也がかわいかったからだとか、少ししか思ってねーし。
もちろん疲れたからおんぶしろという臨也も悪くはないけど。
それはそれでありだから、別に買出しじゃない時でも付き合ってもいいし。
寒くなると引きこもりやがる奴だけど、こんな風に楽しめるなら、今度は俺からデートに誘ってやってもいいだろう。
そんなことを考えながら俺はソリを引いて走った。
リフトなんてなくても俺がおまえをどこにでも連れてってやるよ。
そう呟いた俺の言葉はたぶん臨也には届いていない。
それでも、たぶん臨也は分かっている。俺だからできること、俺にしかできないことを。だから別にいいんだ。

家が見えてきた。
白い息が後ろに流れていく。
俺たちの家だ。
シズちゃん、と臨也が呼ぶ声がする。
続いてただいまと言う声が聞こえてきて、俺はラストスパート、さらにスピードを上げた。



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