また気がつけば時間が経っていた。
11時だった。いつもシズちゃんは10時前には寝ているので、そろそろいい頃合かな。
シズちゃんに合わせて朝型生活を送っていたので俺もすでに眠い。
お風呂は音で起こしちゃうかもしれないから、明日朝シャワーでも浴びればいいか。
干していたシズちゃんの毛布は回収済みなので、後はロフトに上がるだけ。
俺はそっとドアを開けて電気の消えたダイニングの様子を伺った。
…嘘だろ暖炉の火、消してやがる。
まだ夜は冷え込む季節だ。誰かがロフトを使う場合は、いつも暖炉の火は落とさないのに。
なんの嫌がらせだよ。
俺はムカムカしつつ、ロフトに置いといたシズちゃんの毛布を引っ張り下ろしてきた。
仕方がないから自分の部屋で毛布にくるまって寝よう。
俺の椅子は高級ふかふかチェアーだし、暖房効かせたら問題ない。
暗闇の中、毛布をかぶって部屋へと引き返そうとしたら、後ろからガシリと襟首を掴まれた。
「何してんだノミ蟲、いやミノ蟲」
「シズちゃん」
何してんだはこちらのセリフである。
「まだ起きてたの?」
そう言って見上げたシズちゃんの目は眠そうにトロンとしていた。
「テメェを待ってたんだよ」
「は?」
シズちゃんはそのまま俺を自分の寝室に引きずって入った。
ベッドとタンスがあるだけのその部屋に引っ張り込まれ、俺は首をかしげた。
「なに?なんか用でもあった?」
もしや毛布をすり替えたのがバレたのか、と冷や冷やしながら聞くと、シズちゃんも不思議そうな顔をした。
「おまえまだ寝ない気か?夜更かしすんなこのノミ、ミノ蟲が」
いちいち言い直すなよ、と突っ込むよりも先に引っ張られ、俺は1つしかないベッドに押し込まれた。
しかも後からシズちゃんまで入ってくる。
「は?ちょ、シズちゃん?何してんの?」
「な、バ、バカ、別に何もしねーよ!寝るだけだろ!」
純粋な俺の疑問にシズちゃんは顔を赤くして答えた。
ちょっと待てどういうこと?シズちゃん、もしかして最初からこうするつもりだったの?
「いや、あのねシズちゃん、俺別にベッドじゃなくても寝れるから…」
「ベッドがあんのにわざわざ他で寝ることねーだろ」
シズちゃんはもがく俺を布団に押し込み、狭いベッドから落ちないよう、ぎゅうっと布団の上から押さえ付けてきた。
そうされるとまるで布団越しに抱き締められているようで、目の前にシズちゃんの喉仏が見える状況に俺は硬直した。
普通、弟のためにベッドを空けて、俺と共寝する?
まだ逆の方が分かる気がするんだけど。
じわじわと目の周りが熱くなる感覚に俺は眉をひそめた。
本当にシズちゃんのすることは訳が分からない!

このまま本当に寝る気なのだろうかと思っていたら、
「臨也…」
と至近距離から掠れた声が聞こえてきた。
「おまえ…この毛布…」
ああそう言えば俺が引きずり込まれる前からくるまっているこの毛布は、他でもない彼の毛布である。
「おま…俺の毛布を…」
シズちゃんの手がぐっと布団の上から俺の肩を掴んだ。
ちょっと待って言い訳させて欲しい。他意はない。単に動物避けのためだった。そう、他意はなかった、と思うよ。たぶん。
恐る恐る顔を上げると、なにか言いだけな目と目が合った。
シズちゃんの手が、肩の上から背中の方に伸びていく。
そしたらその分、距離がさらに縮まった。
だから俺も何も言葉にならなくて、だんだん近づいてくるシズちゃんの赤い顔に、ただ目を閉じることしかできなかった。










(おまけ)

「兄さん、母さんから貰ったレシピはどう?出来そう?」
「ああ大丈夫だ。味見してみるか?」
「うん、…ああこの味、家のカレーの味だ」
「よし、で、後はこれを…」
「その小さい鍋、どうするの?」
「あー、あいつはカレーは辛くないと嫌だとか抜かすからよお、いつも別々に仕上げるんだ。辛くなるペーストがあっからそれを足して…」
「…どうしたの?」
「やっぱやめた」
「どうして?」
「これ入れると味が変わるだろ。そしたらもうそれは俺んちの味じゃねーから」
「…うん」
「あいつに家の味、食わしてやりてーから」
「兄さん…」



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