シズちゃんは朝起きてから御飯までの間に軽く森を回ってくる。どうも野生動物を見たいらしいんだけどちっとも見る事が出来ないから、食材を採りに行くって出掛けるんだけどね。シズちゃんが徘徊してる間は間違いなく動物達は巣でじっと耐えてると思うから絶対見れないだろうけど。

そんなわけで茸とか果物とかを背負った籠に入れてくるんだ。
毒とか何も気にしないっていうか、判ってないんだと思う。シズちゃんが使う食材だし、当然それを食べる俺にも関わってくる事だから選別は必須だ。採ったモノは何でもまず俺に見せるように躾けるのには苦労したけど、その辺を上手く煽てるのにはもう慣れたよ。

そして今日も毒キノコが混じってた。

「…シズちゃん、これ毒キノコだよ。何?笑い死んでくれるワケ?」
朝食に使う食材を選ぶのに籠を漁ってたシズちゃんに摘んだ毒キノコを見せ付けてやった。
「あぁ?毒?」
「そうだよ、前も言ったよね?コレは毒なの。毒キノコって結構ヤバイんだから気を付けてよ。」
まぁ、気の付けようも無いだろうけどね。
「まぁ、シズちゃんは平気かもね。…ちょっと試しに食べてみてよ。そして死んで(^□^)」
「ウゼェ…てめぇが食って死ね。……じゃぁ、コレも毒か?」
そう言ってシズちゃんが似たようなキノコを摘んで見せた。
「ちょっと、ソレは俺が選別したヤツじゃん!食べられるキノコ!!」
「んだよ…一緒じゃねーかよ。」
「確かに似てるけどね、こっちは毒で、そっちは食用だよ!」

この会話も何度目だろう??毒キノコって種類も結構あるしね。つか、マジで何種類生えてるんだよシズちゃんの森;;忘れた頃に前に採った毒キノコ拾ってくるし;;
流石にこのやり取りにシズちゃんもキレそうだ。でも俺に当たるのも何か違うってのは判ってるっぽい。その辺シズちゃんも成長したよねぇ。昔の理不尽大魔王が懐かしいかも。
そうこうしてるとムスッとした顔で何やら考え込んでいたシズちゃんがおもむろに森側の窓を開けた。そして大きく息を吸い込むと…

「毒キノコうぜぇぇぇぇぇ!!!」

うん、もの凄く響いた。後ろからあの背中にナイフ投げようかと思ったけど(実際手には持った)たぶん無駄だと思って止めたよ、つか何なの突然。
当の本人は「フンッ」と森に向かってドヤ顔した後は窓を閉めて普通に朝食の準備始めるし。
もしかしてシズちゃんてばもうすでに毒キノコにヤラれちゃってんじゃない?
俺が選別してない食材があった?使った?俺も手遅れ?ちょっと!鼻歌なんか歌ってないでさ!新羅に診てもらおうよ!!


* * * * *


そんな事があった翌日、シズちゃんが採ってきた籠の中に毒キノコは入って無かった。
偶然かとも思ったけど、それまで毎日絶対入ってた危ない食材ってのは以後一切無くなったんだ。まさかシズちゃんが識別できるようになったかも?なんて…無い無い絶対あり得ない。

 俺が思うに…あの雄叫びで…毒キノコが死滅したんだと思う。

シズちゃんてこの山じゃ、本当に「神」だよね。人間じゃないよね。バカだけどね。


そして本題はここからなんだよ、そろそろもう選別もしなくて良いんじゃないかと思い始めたある朝、とんでもないモノが籠の中に入っていたんだ。


「………シズちゃん…。」

震える俺の手が摘み上げたのは間違いなく松茸だ。大きさや形から見ても1本1万円なんて軽く超えるクラスだ。当然ながら天然だよね。どうなってんのこの山;
っていうかさ、松茸ってたしか養分のショボイ土地に生えるんだよね?シズちゃんの森みたいにやたら栄養豊富なトコは好まないキノコだったハ…ズ…。っと、ここまで考えて、フと先日の毒キノコ死滅事件を思い出した。死滅した毒キノコ周辺一体が全部死滅したとしたら…それこそ養分とかなんかも。頑張って踏みとどまった僅かな養分の土地に、神懸かり的な力が働いて松茸を生み出した。…怖いくらいにしっくりくるんだけど。コレで妙に納得してる自分にもう呆れて笑えてくるんだけど。本当にもうシズちゃんてば何なの。

「この茸ってどの位あった?」
「あ?…なんだコレ?」
「バカなの?今朝採ってきたばっかだろ?」

かなり見つけ難いハズだから採った時の印象は残ってるはずだよ。…それとも何?シズちゃんにしてみたら松茸採りなんて何でもないワケ?どっかの豚みたいな能力でも持ってるの?やっぱり人間じゃないんだね。うん、知ってた。

「あぁ…そういや、埋まってた。食えんのか?」
「食べれるよ!食べるよ!むしろ売れるよ!売ろうよ!いっぱい採ってきて!」

すでに俺の頭の中ではこの松茸をどのルートでどう売ろうか弾き出してる真っ最中だ。
シズちゃんオーラがあるから品質の心配なんか要らないし、これは大ビジネスだよ。
脳ミソ高速回転中の俺を横目に「んなに美味いのか?」なんて言ってるシズちゃんに「これが松茸だよ」と教えてあげておいた。松茸くらいは知ってるよね?

…ちなみにその日の朝食に普通に松茸がバター焼きにされて出された。
ちょっ;香りを楽しむ食材にバターて!!ホント死んでよ!この大馬鹿!!
「俺、売ろうって言ったよね?普通売るよね?つか、松茸にバターってどうなのさ?!そりゃ食べるけどね?まずは味見って事?あんな完璧な形の松茸で試すなよ、もっと凄いのがあるの?いっぱいあるの?早く採ってきて!全部採ってきて!」
キレて騒ぐ俺にシズちゃんは冷めた目で「好き嫌いすんじゃねーよ」と言いやがった。本当に人の話聞いてないよね?バター焼きが気に入らなかったとしか思ってないよね、それ。どういう頭してんの?ちゃんと理解してよ!マジで一回死ねば良いのにって言い捨てて部屋に引き篭もった。
シズちゃんに近付かなかったから段々と獣が纏わり付いてきてウザかったけどね。


そしたら晩御飯は土瓶蒸しだった。…思いっきりドヤ顔で出してきたよ、シズちゃん。
あれから採りに行ったって事だよね?調理法を調べたんだろうね?

 俺は売ろうって言ったんだよ!!

やっぱりちっとも判ってなかったんだよシズちゃんてば。
うん、美味しかったけどね…。



…でもね、ヤカンの中に大量に入った松茸(他の具材もちょこっとあった)を見た時の俺の気持ちを察してくれないかなぁ…。
情緒のカケラも何も無い、まさにシズちゃん料理なんだけどさ。一体これ値段に換算したらいくらなんだよって事なんだよ!

「お前はマジで面倒な奴だ。」とか言いながら土瓶のつもりだろうヤカンから松茸をお椀によそってくれるシズちゃんは得意気だ。でもチラチラと横目で俺の反応を伺ってる。この部屋に充満してる松茸の香りも、わざわざあのシズちゃんが調理法を調べたのも、全部俺の為なんだ。シズちゃんは馬鹿だけど優しいからね。俺なんかにもさ。



「…ありがと シズちゃん」

他の食材も含めて…しめて21万3千円(税抜き)な晩御飯を前に、俺はどうにか笑顔を作った。
きっとまだチャンスはある、次に収穫したのは絶対売ってやるんだ。

今回のコレはこの山での初収穫だったわけだし、2人で食べるのも悪くないかななんて…最近になってたまに見せてくれる俺に向けられた満面の笑みを見てちょっとだけ思った。



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