暗い部屋。
黴臭い壁。
小さい体。
終わらない、悪夢。


「…………」


目を開けたら暗闇だった。と、言うより、布か何かで目隠しをされていてなにも見えない。腕を伸ばそうとしたらどうやら縛られているらしく、手首に細い紐が食い込む感触がした。


どうして、俺はこんな状況下に置かれているのだろう。夏へ向かうこの季節、半袖でもそこまで寒くはないが、しかし俺は部屋着のままのはずだから、薄くてもいい、何か羽織るものが欲しい。
とりあえず今の状況を把握してみる。大丈夫、俺は冷静だ。

まず、両腕と足首は縛られているらしい。目隠しも。口は塞がれていないので声は出せるが、他人の気配の無いここで一人で大声をあげる気はない。そんな無駄なことに体力を使うより、どうしてこんな目にあっているのかを考えたい。けれど、どちらにせよ無駄かも知れない。結局のところ犯人すらわかっていないのだ。


「あー、りっくん!」

「……え?」

「りっくんだぁー! りっくんりっくん!」

思いの外、近い場所で聞き慣れた声が聞こえた。いや、幻聴かも知れない幻聴だ。

「あれっなんで黙ってるの? りっくんりっくんりっくんー!」

「………」

「ねえねえ此処が何処だかわかるー? って、あー、目隠し! これじゃあわっかんないねーめんごめんごー!」

「………………」

「りっくんなんでだんまりなのさ? あっ縄、解いて欲しいんだねっそうだよねー忘れてたよ!」


めちゃくちゃ煩い。
声が反響して頭に響く。眉間に皺を寄せて尚も黙っていると、何やら縄を解いてくれたようで(恐らく素手で!)手首の圧迫感は無くなった。自由になった腕ですかさず目隠しの布をむしりとる。


薄暗い、物置小屋みたいな場所だった。埃っぽいのでおそらく長年使われてないんじゃないかと思う。

目の前に、幼なじみ、いや腐れ縁の奴の笑顔。何が楽しいのかへらへら笑っている。

「えへへりっくんー、お菓子食べる?」

「…要らない。それより、俺はどうしてこんな所に居るんだ?」

「知らない」

「……、ならお前はどうして此処にいるんだ?」

「わかんなーい!」

「………お前に聞いた俺が馬鹿だったよ」

頭が痛い。偏頭痛かも知れない。こめかみを押さえて唸ると「りっくんは馬鹿じゃないよう! この前の全国模試だって総合順位4位だったじゃん!」とか声が降って来て更に痛みが増す。俺は冷静、俺は冷静……。
ていうか、総合順位2位のお前に頭いいとか言われたくねぇよ。

「だってあれはりっくんが勉強しろって言ったからだよー。頭いい人が好きなんでしょ?」

「…悪いよりはいい」


そんなことよりも。
俺達がどうして此処に誰が何の目的で、が知りたい。
電球等は無いみたいだが幸いずっと薄暗いおかげで視界はそこそこ悪くない。但し昼か夜かは分からない。どうやらこの物置小屋はなかなか広いらしく、遠くに目をこらすと何か段ボールの様な物が積んであるのがぐるりと周りに回って見えた。つまり俺は物置小屋のど真ん中に居たという訳か。

……と、視線。


「…おい」

「なんだいりっくん?」

ポケットからロリポップを出して三本まとめて口に入れた顔が此方を向く。栗鼠みたいに膨らんだ頬を突きながら声を落とした。

「この場所に、俺達以外にも誰か居るのか?」

「うん。向こうに3人、あっちが5人だったよ」

そう言って指された方向は、先程視線を感じた段ボールの向こう側だった。
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