酔っ払いと私

 クーラーにタイマーを付けて眠っていたのだが、タイマーが切れてから程なくして、暑苦しくって夜中に目が覚めてしまった。しかも妙にお腹が空いてしまって、素直に寝付けそうにない。
 あーあ、やんなっちゃう。放っておけばぐうぐうと鳴り出しそうなお腹を摩りながら、寮の共有スペースのキッチンへと向かう事にした。隣の部屋で眠る硝子を起こさない様に気をつけつつ、スリッパを履いて廊下を歩く。
 そうしてキッチンに辿り着くと、備え付けの冷蔵庫を覗き込む人影を発見した。電気も付いていないから、すわ不審者かと一瞬だけびっくりしたけど、私の足音に反応したのか、こちらを振り向いた見慣れた顔にホッと息を吐き出す。なんだ、夏油か。

「きみか。どうしたの? ねれない?」
「目が覚めたらお腹が空いちゃって。夏油は?」
「私はよふかししてたらお腹がすいてね」

 そう言って笑った夏油に対し、目ェ悪くなるよ、と言いつつキッチンの電気を付けて、想像以上の眩しさに顔を顰める。夏油の方も眩しさに唸っていたので、ちょっと吹き出してしまった。
 そうして明るさに慣れた頃、ちゃんと目を開いて夏油の顔を見て、思わず目を瞬かせる。夏油ってばどことなく目が据わっていて、顔が真っ赤だ。

「不良め。お酒のんでたでしょ」
「ん? のんでないよ」
「うそつき。顔真っ赤だからね」
「あちゃあ」

 バレたか、なんてちっとも反省していない声色で言ってのけた夏油は、こてんと首を傾げて私を見つめる。

「きみもいっしょにのむ?」
「飲まないよ。ほら、夜食作ってあげるから。どいたどいた」
「えー、私もてつだいたい」
「いいから酔っ払いはソファに座ってて」

 やだよ、なんて珍しく浮ついた声で言った夏油は、冷蔵庫からゆでそば等を取り出して調理の準備をする私の後を、雛鳥の様について回ってきた。正直言うと、大柄な夏油に密着されると邪魔でしかない。
 が、酔っ払いに邪魔だと伝えた所で、聞き入れてもらえるはずもなく。ねえ手伝うよ、と煩いくっつき虫を背中に貼り付けたまま料理をする羽目になった。
 お湯を沸かせば、私もやりたいと言い、そばのつゆを作っていると、味見させてなんて強請る。ネギを切ろうとすると、私に切らせてよと擦り寄ってきて、蕎麦を茹でていると、一本食べさせて、なんて。
 ぶん殴ってやろうかな、と思うほどに鬱陶しい。しかも後ろから私を抱きしめてくるものだから、邪魔でしかなかった。私と夏油とはこんなにベタベタとくっつく仲でもあるまいに。

「……今日の夏油、構ってちゃんすぎない?」
「今日はそういうきぶん」
「ふぅん……」

 沸騰している水の中で泳ぐ蕎麦をお箸でかき混ぜながら、私の首に額を寄せている夏油をチラと見下ろす。……やっぱ、疲れてるのかな。
 五条と並んで特級術師の階級に手をかけている夏油は、そりゃもう多忙だ。こうして顔を合わせるのだって数日振り。そう考えると人肌が恋しかったり、誰かに甘えたいだとか、夏油が考えても不思議ではない。ただの同級生であっても、寂しいからと密着するのも仕方がないと言える、かも……? うーん、何とも言えないな。

「もっとかまって」
「夏油、実は滅茶苦茶酔ってるね。大丈夫?」
「大丈夫じゃないからかまってよ。ねえ」
「もうちょっとでおそば出来るから待ってってば。夏油ってそば好きでしょう」
「やだ」

 ぐ、とお腹に回された腕の力が強まって息が詰まる。この怪力野郎め、私がひ弱なの分かってないのか……? ぺしぺしと彼の腕を叩いて放してくれと頼んでみても、一向に力が緩む気配はない。

「ね、せめて腕の力緩めてよ」
「どこにもいかない?」
「行かないってば」

 同級生の甘ったるい声に、図らずとも耳が熱を持つ。こういう声、普通恋人とかに対して出すもんでしょ。お酒を飲んで体温が上がっているのか、首元を撫でる熱い息にもぞわぞわするし、時折鼻にかかった様な声を出しながら身じろぎするもんだから、もう恥ずかしくて仕方がない。夏油は自分の声の良さを自覚してるんだろうか。
 何とか羞恥に耐えつつ、水で締めたそばと氷とつゆとを器に移し、テーブルへと向かう。その間も、やっぱり夏油は痛いほどの力で私にしがみ付いている。……彼の事はもうだっこちゃん人形か何かと思った方が精神的にいいかもしれない。

「ほら夏油、おそば出来たよ。食べよう?」

 ローテーブルの上にそばを乗せたお盆を置いてから、どうにかこうにか体をひねって背後にいる夏油と向き合う。なんかもう恥ずかしいとかじゃなく、夏油のことが心配でならない。大丈夫なのかこの男。
 顔を赤らめて私を見る夏油の瞳を見つめ返しながら、ゆっくりと頭を撫でてやる。暫くそのまま撫でていると、ようやく落ち着いたのか私に抱き着いていた腕が緩まった。

「そば」
「え? 急に何?」
「すき」
「知ってるよ。はい、お箸持って」
「うん」

 しかしまあ完全には私を放すつもりは無い様で、夏油は私を左腕で抱いたままソファに座り、少しこちらに凭れ掛かりながらそばを食べ始めた。器用だなあなんて的外れな感想が思い浮かぶ。
 夏油に抱き着かれているから食べ辛いが、私もお腹が減っているのでどうにかこうにか箸をすすめる。暑くて起きたってのに、どうしてこの男と密着する羽目になってるんだろうか。冷たいそばは体が冷える感覚がして心地いいのに、腰に回された腕が熱くて、そこだけ汗で湿ってきた。
 少しだけ離れようかな、と身をよじれば、逃がさないとでも言うように腕の力が強まる。そんなに嫌か。

「ねえ、わたしの部屋おいでよ。いっしょにお酒のもう?」
「や、私はお酒飲まないから。ていうか夏油ホントに寝なよ」
「いっしょがいい」
「えっ、いや流石に一緒に寝るのは無理だよ。五条のとこにでも行けば?」
「悟はかたい」

 そういう問題なのか?

「きみがいい。やわらかい」
「わ……っ、ちょっと、夏油」
「それにいいにおいだよ。花のにおいだ」
「離せってば。いい加減怒るよ」

 ぐ、と私の腰を抱き寄せて、胸元に顔を埋める体勢になった夏油に対し、流石にキツい物言いになる。どうして酔っ払った同級生からセクハラされなきゃなんないんだ。
 腕を叩いても全く離れる様子がないもんだから、夏油のサラサラした髪を鷲掴んで、思い切り引っ張った。その時にプチプチ、という髪が切れる感触が手に伝わって、少しだけ罪悪感を覚える。……けど、セクハラかましてる夏油が悪いんだから仕方ない。

「っ、……いたい……ひどい、なんで」
「夏油。部屋に戻って」
「やだ。いやだ、きみといる。おいてかないで」

 髪を引っ張ったのがよっぽど痛かったのか、ぐずぐずと半泣きになった夏油が今度はお腹あたりにしがみ付いてきた。しかも、いかないで、ひとりにしないで、なんて甘えた声で泣き言もまで吐いてる。
 ……ああ、もう。
 あんまりにも憐憫を誘う声だから、膨らんでいた怒りが萎んでしまった。なんでたかが同級生にこんなに甘えてくるんだか。

「いっしょにいて」
「……あー、落ち着くまでいてあげるから」
「ほんとう?」

 さっき引っ張って、痛かったであろう頭を労る様に撫で摩る。すると、お腹に回されている腕の力が少し緩んだ。成る程、こういう風に甘やかして欲しかったのか。
 左手で髪を梳きながら、右手で頭を撫でる。時折、こめかみを親指の腹で少し押してやると気持ちがいいのか、どんどんと脱力していく。
 しかしまあ、偶々ここにいた私に甘えてくるなんてよっぽど疲れてるんだろう。いつも弱味なんて無いですよ、なんて顔してる夏油からは想像もつかない。

「…………ん」
「夏油眠いの? 部屋戻ろっか?」
「……きみもきてくれる?」
「それはダメだってば」
「じゃあもどんない。きみといっしょにいる」
「私は部屋に戻りたいんだけどなぁ」

 そんな私の言葉を耳にした夏油は、突然ガバリと顔を上げた。動揺がありありと見てとれる表情に、逆に私まで吃驚してしまう。なんでそんなに驚いてるんだろうか。
 暫くの間、信じられないとでも言いたげな顔で私を見つめていた夏油は、何を思ったか急に抱きついてきた。そしてそのまま体重を掛けてくるもんだから、私が彼の体重を支え切れる筈もなく、堪らず後ろにひっくり返る。
 めちゃくちゃ重たい……。筋肉の塊である自覚はないのか? 首元に擦り寄りながら、腕に力を込めて私を抱きしめてくる夏油に対して、途方に暮れるしかない。
 ……というか、この体勢は不味いだろう。ソファに押し倒されている様なものだ。万が一五条や硝子、後輩たちや夜蛾先生に見られてしまえば面倒な事になる。

「夏油ってば。ちょっと」
「やだ。はなさない」
「えええ……」

 蜂蜜みたいにどろどろとした甘ったるい声で甘えてくる夏油に、もうどうすればいいかわからない。夏油はずっとやだやだと言い続けてるし、抱きしめてくる力が強くって身動きが取れないし。
 唯一動かせる左手でぽんぽんと彼の背中を撫でてやれば、落ち着いてきたのか甘い声は聞こえなくなり、私に乗っかっている体から力抜けてきた。お、重い……。

「夏油、ほんとに重たいからちょっと退いて……」
「………………ぐぅ……」
「……えっ」

 ぎょっとしてどうにか顔を動かして夏油の顔を覗き込めば、随分と穏やかな顔で寝息をたてている。……え、このタイミングで寝るの?
 
※※※

 顔を真っ赤にしながらその巨躯を縮こませ、床に正座しながら謝罪を繰り返す夏油を睨め付ける。この男、窓からうかがえる空が白んできたから、と何度も起こしたというのにやだやだと駄々を捏ね、結局7時頃まで私の体の上で寝こけていたのだ。

「あ、の……昨日はほんとごめんね。凄く面倒くさい絡み方をした挙句、抱きついて寝ちゃって……」
「……酒は飲んでも飲まれるな、っていうよね」
「本当にごめん」
「体中バッキバキで起き上がるのにも一苦労なんだけど……」

 ふう、とため息を吐きながら体を起こそうとするも、筋肉が固まったせいで背中に痛みが走る。思わず顔を顰めた。
 そんな私の様子を見て拙いと思ったのか、夏油が手を差し出してきたので遠慮なく掴む。そのまま手を引っ張って貰って体を起こす。はあ、これ絶対寝違えてるよ。

「夏油」
「ごめん……」
「もーいいよ。というか、二日酔いとかは大丈夫なの」
「うん、大丈夫だよ。……ありがとう」

 しょんぼり、といった具合に落ち込む夏油を見ると、節々は痛いものの仕方ないなあなんて思いが浮かんでくる。若干カッコつけたがりの気がある夏油が、あんなに甘えたになってる所なんて見たことなかったし。本当に、よっぽど疲れがたまってたんだろう、って。
 そう思って、仕方のない男だな、と納得したのだ。あの日は一日中夏油を荷物持ちにしたし、本人も凄く反省していたから、仕方ないなぁって。……納得したんだけど、だからと言ってこれは違うでしょ。

「こんばんは」
「……あのね、今、夜中の2時なんだけど…………」
「部屋はいるね」
「夏油さ〜ん? 話聞いてます?」
「お邪魔します」

 ちゃんと挨拶するとかいう、そういう所が律儀なのはいいけど帰ってくれませんかね。部屋の入り口で通せんぼする私を抱き上げ、ズカズカと部屋に上がり込んでくる夏油にため息をつく。
 この男、味を占めたのか何なのか知らないが、何故か酔っぱらう度に私のところへやってくる様になったのだ。今月はもう2回目である。
 そして毎度部屋で寝落ちし、翌朝恥ずかしそうにして謝罪する、なんてことが繰り返されていた。お酒を飲むようにするのを止めたらどうだ、と言ってみても止めたがらないし……。

「今日こそ一緒に飲もう」
「嫌だってば。未成年飲酒するつもりは無いし、夏油も止めときなって」
「やだ」

 未開封の缶チューハイ片手に、顔を赤くした夏油は抱き上げていた私をベッドの上に降ろすと、そのまま真正面から抱き着いてきた。最早タックルとも言える抱き着き攻撃に耐えきれる筈もなく、あっけなくベッドの上にひっくり返った私は、身動きが取れずに途方に暮れるしかない。

「夏油、重いから退いて」
「嫌だ。もっとぎゅってするから」
「まてまてまて、死ぬから、ちょっ、げと」

 ぎゅう、なんて可愛らしい言葉に似合わぬ力が私を襲う。夏油の胸板に顔面が押し付けられて息がし辛いし、骨がミシミシしてる感覚もする。やめてくれ、死んでしまうぞ。
 ギブアップ、とどうにか自由を得た手で夏油の背中を叩くが、何を勘違いしたか頭の天辺に顔を擦り寄せてくるだけ。違うそうじゃない。タップしただけで夏油を撫でたんじゃないんだよ。

「ふわふわしてるね」
「夏油のせいで私の意識がふわふわしてるんだけど」
「お酒飲む?」
「飲まない。君のその酒への拘りって一体何なの……」

 ぐいぐいと肩を押してどうにか上半身を自由にしたものの、即座に夏油に抱きしめられて無意味になった。非力な己が恨めしい。
 んー、と唸りながら首元に擦り寄ってくる夏油に、またため息を吐く。本当に、何で私のところに来るんだろうか。五条とか、別に硝子の所に行ったっていいだろうに。それに何だか今日の夏油の様子はおかしいし。
 ……一度痴態を見せてしまったから、私に取り繕う必要はないとか思ってるのかも。もう少し大人しく甘えてくれるならまあ別にいいんだけど、夏油の力は強いからなぁ。この前は抱きつかれた所が真っ赤になっちゃってたし。

「ねえ、撫でてよ」
「はいはい、撫でさせていただきますよっと」
「……ん、きもちい」

 髪を下ろしている夏油の後頭部に手を添えて、髪を梳く様にしながら指の腹でゆっくりと撫でさする。夏油はこの撫で方が凄く気に入ってるみたいで、何度も何度も強請ってくるのだ。
 まあ、気持ちよさそうなのはいいけど。

「もっとして」
「はーい、仰せのままに。……ねえ、ちょっと苦しいから退いて欲しいんだけど」
「嫌。このままもっと撫でて」

 リラックスしてきたのか、夏油の体から力が抜けてくるせいで正直苦しい。私よりも20cm近く大きい筋肉だらけの男にのし掛かられて、平気でいられる訳ないだろうに。
 けれど夏油は私の言葉が気に食わないようだ。首元にしがみついていた夏油が少し腕を緩め、私を押し倒している体制のまま不機嫌そうな顔で私を見つめてくる。……見慣れてしまった赤らんだ顔を見つめ返して、やっぱり今日は変だなって思った。
 ちょっとだけ懐疑的になりながらもぺたりと夏油の頬に手を当てると、私の体温が気持ちいいのかうっとりと目を細めて擦り寄ってくる。そのまま親指で瞼を撫でてやった。
 ……随分とまあ穏やかな顔をしてくれちゃって。

「ねえ、夏油」
「…………ん……?」

 私の呼びかけに、緩慢な様子で首を傾げた夏油が答える。……うん、やっぱりそうだ。

「君、素面でしょ」

 ぎゅう、と彼の鼻をつまみながらそう伝えると、夏油はうっとりと細めていた目を思い切り見開いた。そして急いで身を起こそうとしたものだから、彼の首に腕を回して動きを止める。
 そのまま、ちょっとはしたないとは思いつつも、彼の足に足を絡ませて逃げられない様に拘束した。そうすれば至近距離で見つめる夏油の顔がじわじわと赤味を増していって、ふいと顔を逸らされる。耳まで真っ赤だ。

「いつもみたいに酔っ払ってないよね」
「…………はなして」

 可哀想なぐらい顔を赤くした夏油が、蚊の鳴くような声で懇願してくるものの、それを素直に聞いてやる義理はない。もう一度彼の頬に手を当てて、強制的に顔を私の方へと向けさせる。
 そうすれば、眉根を寄せて恥ずかしそうにしている夏油の顔とご対面だ。いつもみたいな酔ってぽやんとした顔と違って、少し涙目になっているのが可愛い。

「あのね、夏油は気付いてないかもしれないけどさ。酔っ払って私の所に来る時の夏油って、びっくりするくらい甘ったるい声で話すんだよ」
「……そ、んなことないよ」
「本当に自覚ない? 猫撫で声っていうか、聞いてるこっちがドキドキしちゃうくらい甘いからね」

 さっきまで好きなように甘えて抱きついてきてた癖に、今じゃ私から離れようと腕を突っ張っている夏油に、笑いが込み上げてくる。なんで素面なのに酔ってるフリして甘えてきたのか知らないけど、意外と可愛いことするんだなあ。
 私に頬を触られたままあちらこちらへと目線をやっていた夏油だけれど、観念したのかついに目と目が合う。私は何も言わずに夏油を見つめ続けて、夏油の方も何も言わずに黙りのまま。
 なんて言おうかな、とか考えてるのだろう。……まあ、どう言い訳した所で夏油が素面で甘えてきた事には変わりはないけど。

「その……」

 羞恥心からか、少しだけ震えた声で夏油が話し始める。

「酔ってる時の記憶は、一応あるんだけど……全部完璧に覚えてる訳じゃないし、感覚とかは全然覚えてなくて。……それで、あの……」
「うん」
「酔ってた時に君に頭を撫でて貰って気持ちよかった、って思った事だけは覚えてて……その感覚をちゃんと覚えてたくって、だから……えっと…………」

 辿々しいものの、顔を真っ赤にしながら頑張って弁明する夏油に、何故かキュンときた。甘えてくる時の声にはドキドキするけど、こんな風に弱々しい夏油が珍しくて、可愛くって、えも言えぬ感覚が湧き上がる。
 これ、許しちゃダメかな。というか既に嘘ついたことに対して怒ってないというか、そもそも怒ってないというか。あの夏油傑が酔っ払ったフリまでして私に甘えて、頭を撫でられたがっていたって事実に心が揺さぶられる。
 …………もしかしてだけど、この男ってめちゃくちゃ可愛いんじゃないか?

「夏油」
「っ、うわッ?!」

 夏油の頬から手を離し、彼の首裏に腕を回して思い切り引き寄せる。それからさっきのように後頭部に手を添えて、ゆっくりと髪に指を通しながら頸あたりまで撫で付けていく。
 耳のすぐ横で、夏油が息を詰まらせたのがわかった。不意打ちでびっくりしたのか。……やっぱり可愛いな。

「いいよ。いつでも撫でてあげる」
「…………ほんと?」
「ほんと。だって甘えたいんでしょ? 寂しんぼくん」



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