かわいいあのこ
昔は可愛くて仕方なかったなぁ、なんて事を思った。
「おねーちゃ、みて! こえ、どーじょ!」
6つ歳下の、小さな小さなすぐるくん。
私を見つけては走り寄ってきて、ふっくらとしたまあるいほっぺを赤らめながら私のズボンやスカートをぎゅっと握り、一生懸命おしゃべりしてくる、かわいい子。私が彼に目線を合わせてしゃがみ込めば、きゃあと声を出して喜んでくれるものだから、私はいつも彼に構ってあげていたのだ。
何が彼の琴線に触れたかはわからないけれど、すぐるくんは私の事を大層気に入っているみたいで、いつだって抱っこをせがんで、くっ付きたがった。それがまあ、普通の子だったら私もそこまですぐるくんの事を可愛がることはしなかっただろう。
でも、すぐるくんは本当に可愛かった。私を見つけた時の嬉しそうな顔。手を握ってあげた時の緩んだ口に、真っ赤になったほっぺ。じぃと私を見ては、目が合うとニコニコするだとか。そのどれもが庇護欲を唆って、私は見事にすぐるくんの事が大好きになっていた。
「おねえちゃ、まってえ」
「うん、ちゃんとここでまってるよ」
「あぃあとぉ!」
本当にもう目にいれても痛くないほど可愛くて、この子は私の弟なんじゃないかってぐらい一緒にいて。ずーっと可愛い可愛いすぐるくんで居てくれるって思っていた。
……のだけれど。
「どうしたの?」
「いや……傑くん、縦にも横にも伸びたなって」
「……横にも、は余計だよ」
いつも頑張ってぽてぽてと歩いていたぷよぷよの脚は、すらっとした長い足へ。私の服を握りしめていたふかふかのパンみたいだった小さい手も、少し血管の浮いている骨張った男らしい手に。あとはあんなにふくふくしていたまあるいほっぺも、すっかりフェイスラインが綺麗になってしまって……。
すごく可愛くなるだろうなって思ってた顔も、大人びた今じゃ「塩顔系イケメン」に属する様になったし。ああ、可愛かった私の傑くんを返して欲しい。
「ねえ、なんでそんな残念そうなの」
残念に決まってるでしょ、傑くんのバカ。
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