亡者の餞C

「あぁ、そうだ。九相図の長男いただろ。アイツ虎杖の兄弟だから殺さねえでやった方がいいんじゃねえか」
「…………は? マジで言ってる?」
「嘘ついてどうするよ」

 五条悟が自由になった。つまりはこれから、五条悟の五条悟による五条悟の為の呪霊共の皆殺しRTAみたいなんが始まる訳だ。あと脳みそ野郎抹殺ショー。だがそうなると脹相も普通に殺される羽目になる。それはちょっと避けたほうがいいだろう。
 俺があいつに思い入れがあるとかそういう理由ではなく、単にこの世界的に脹相は生かしておいた方がいいって判断だ。なんせ脹相の場合はその存在自体が加茂家に対する圧力になる。まだ五条家と足並みを揃えられる柔軟さがある禪院家当主の直毘人はまだしも、ゴリゴリの保守派である加茂家は五条家と禪院家と協力するなんて夢のまた夢。
 だがそこで脹相の存在が明るみになればどうか。加茂家の汚点の生き証人の存在であいつらに揺さぶりをかけるなり、はたまた脹相が死刑対象にでもなった時に加茂家に責任をおっ被せるなりして、無理矢理動かしたりができるだろう。
 まあ脹相が五条悟の介入で虎杖の味方になるって確証はねえが、あいつなら虎杖と戦わずとも何らかの嗅覚で弟判定すんだろ。知らんけど。

「加茂憲倫も夏油みてえに肉体を使われてたんだとよ。あと虎杖の
「母親ァ!? 父親じゃなくて? ……あークソ! 時間がないってのに気になる事言うなよ。全部終わったら殺す前にぜってえ吐かせるからな」
「へいへい。あとは夏油を弔いたがってるガキがいるから、そいつらをどうするかはお前が決めろ」

 ブツクサと何やら呟きながら頭を掻きむしり、俺を指さしてから五条悟はパッと瞬間移動で消えていった。多分脳みそ野郎の元に飛んでいったんだろう。もしくは七海とかと合流したかどっちかか。まあこうしている間にも大量の呪霊が暴れ回っているのだし、俺もさっさと動くべきだろうと五条に続いて俺の方も移動することにした。ちなみに経路は駅のビルの上だ。
 理由は脳みそ野郎の放っている呪霊に気取られない様に、って訳なんだが……。どうにも、俺の記憶≠竡タ際に経験した時よりも呪霊の数が多い。五条悟の封印が解かれちまったから、五条から逃げる為に脳みそ野郎は呪霊をばら撒いて撹乱でもしてんだろう。あの男の目的を考えりゃ呪霊の消費はしたくねぇ筈だがそれはそれ。計画も目的も脳みそ野郎が生きているからこそのもの。五条悟に殺されちまったら元も子もねえんだ。あの脳みそ野郎からすりゃ、いかに五条悟の目を逸らして生き残るかってのが第一優先なんだろう。だからこその呪霊の大放出。
 そういうのを呪具の無え状態で一々相手にしてられねえから、わざわざ呪霊の少ねえ屋上を通ってるってワケだ。あとは単純に渋谷駅の構造がややこし過ぎるってのも理由の一つである。なんでこんなにややこしい建物を作ってんだか。一回全部ぶっ壊してでけえモールでも作りゃいいだろうに。土地の権利とかそういうのは知らねーけど言うだけタダだろ。
 そんな事を思いながら、とりあえず真希と直毘人を探す。五条悟の言う通りさっさと恵に合流でもして呪具を手に入れりゃいいんだろうが、それよか先に真希と直毘人と合流した方が色々と都合がいい。直毘人が片腕もがれる前に陀艮を倒せりゃ、後々襲い掛かってくる漏瑚の相手もしやすいってのが主な理由だ。
 あとはまァ、俺が気にすべき恵だが。アイツが死にかけんの自爆なんだし、それはあんま深く考えておかなくてもいいだろう。恵がラッキー男と戦わなけりゃふるべゆらゆら≠オねえんだから、普通に殺しきれるラッキー男なんざ後回しで結構。陀艮をぶっ潰した後に首根っこ掴んどきゃそもそもラッキー男と会わずに済む。
 俺が倒すのは陀艮、漏瑚、ラッキー男の順番でいいか。そっから裏海と真人をどうにかして──、いや。両面宿儺の出現も止める必要がある。あの呪いの王のせいで美々子と菜々子が死んだ筈。つまりは虎杖が宿儺の指を食うのも阻止しなきゃなんねえってか。やること多すぎだろ。五条が漏瑚あたりを倒してくれりゃ良いんだが、それでもせめて天逆鉾寄越せよ。役に立たねえイタコババアだな。
 ……なんて事考えても、とりあえず呪具を得る為に合流できなきゃどうしようもねえ訳で。直毘人がいつも飲んでるいいとこの酒≠フ匂いを頼りに屋上を走る。ハロウィンだからって浮かれてる奴らから漂う安酒の匂いだとか、呪霊に殺された人間の死臭だの血の匂いだの随分と酷え匂いが漂ってるから嗅ぎ取り辛えものの、ある意味あいつの酒の匂いは分かりやすい。勿体無えぐらいにいい酒だし。
 そのいい酒≠フ匂いが一番強くなった所で屋上から地上に降りて、あの二人がいるであろう場所へと向かう。消化された人間と人骨の匂いまでプンプンしてっし、呪霊の喋る声も……。

「…………ん?」

 いや待て。消化された人間の匂いがしてる上に呪霊の声がするっつー事は、あいつら既に陀艮と接敵してんじゃねえか。五条悟を封印から解いて色々くっちゃべってはいたが、そんなに時間経ってたか? タイムスケジュールがシビアすぎんだろ。急がねえと陀艮に領域展開されて面倒な事になる。出来るだけ術師側の戦力は保持しておきてえから、直毘人の片腕はあるに越したことはない。
 そう思って井の頭線の改札階に向かって駆け上がり始めた瞬間、上から大量の水と人骨が流れ落ちてきた。水だけでも面倒なのに骨が混じってるから進み辛いったらありゃしねえ。仕方なくぴょこぴょこ跳ねながら前に進むが、コレ間に合うか? 直毘人が陀艮をボコボコにしてる間に真希の呪具を奪い取って、陀艮の腹をカッ捌けば掌印が描けねえから領域展開を阻止できるだろうが、そうそう上手くいくとは思えねえしなあ……。
 マ、ごちゃごちゃ考えんのは後でいい。なるようにしかならねえんだから。

「水の防壁か……同時に大技は出せるのか?」

 直毘人の声と共に水を殴りつける様な音と、水を切る音が聞こえる。まだ若干遠いが、陀艮を袋叩きにしてる直毘人と真希、あと七海の姿も確認できた。七海と真希が呪具で切り裂き、直毘人が素手で殴りつけるっつー隙のねえいい連携だ。下手に俺が手を出せば、むしろ逆に隙が生まれるだろう。だったらその状況が打破されちまうまでは隠れておいて、それから真希から呪具を取ればいい。あいつうちの$^希よか随分とトロいし、奪い取れる時間が少なかろうがどうにでもなる。
 いつでも呪具を奪えるように限界まで近付きつつも、三人と陀艮に気付かれない程度に気配を隠す。とはいえ術師どもは特級呪霊を相手にしてんだし、呪力の無え俺の気配を探るってのは無理だろうから、俺が真に気をつけるべきは陀艮だけだろう。いくら俺でも質量攻撃を包丁で捌くのはキツイしな。
 そうしてあいつらの様子を伺っていると、術師達に囲われた状態で袋叩きにされていた陀艮が、これ以上殴られては敵わないと空中へ逃げ出した。だが、間髪入れずにその裏を直毘人が取る。他の二人は陀艮の動きにも直毘人の動きにも反応できてねえようで、直毘人とだごんを見上げたまま臨戦態勢をとっているだけ。誰も彼も俺の存在なんざちっとも気付いちゃいねえ。
 ──おし、盗るなら今か。
 一気に七海達と距離を詰め、先ずは邪魔になる七海の襟首を掴んで後ろに放り投げる。急に参戦してきたイレギュラーに呆けた声を出してるが、まああいつも七海なんだからちゃんと着地出来んだろ。んで、そのまま目を見開いてる真希に近寄り、あいつが持ってる呪具……薙刀を引っ掴んで、真希ごと振り回して七海を投げた方へと吹き飛ばす。

「……はァ!?」
「後で返してやっから。ちょっと借りるぞ」

 何が起きたかわからない、っつー顔して吹っ飛んでる真希は今は置いておいて、だ。陀艮が領域展開できないようにと腕を殴り、隙を殺し続けている直毘人に近付いて陀艮の腹を切り裂く。

「腹んとこよく見ろ。呪印描こうとしてんだろ」
「あ゙?」
「手ェ止めんなジジイ。はよ殴れ」

 急に現れた俺に直毘人の攻撃の手が一瞬だけ緩む。が、流石に年季が入ってるというか戦闘慣れしてるというか。直毘人はすぐに死人おれに順応して、陀艮の上半身を重点的に攻撃し始めた。代わりに俺は下半身を滅多刺しにしていく。呪印を書く隙など残さぬよう、入念に。そうでもしなけりゃこの呪霊は祓えねえ。何せ、本来の流れならば陀艮はこの時点で領域展開をしている。つまりはそれに伴って呪力を大量に消費して弱って≠「た筈だ。だからこそ、領域内に侵入した禪院甚爾≠ェ游雲で滅多刺ししただけで祓えたんだ。
 だがこの¢ノ艮は俺の介入のせいで領域展開できなかった。という事はつまり、現状のコイツは領域展開に使うはずだった呪力が有り余ったまま。当然反転術式に回せる呪力が存分にあるから、そう易々と殺しきれねえ訳だ。しかもこの場には大規模破壊ができる人間がいねえから、ちまちまと呪力が切れるまで攻撃し続ける必要がある。直毘人は素手で殴ってるだけだし、俺の持ってる真希の呪具は游雲の下位互換もいいとこだから、削りきるのに相当時間が掛かるだろう。
 あんましチンタラしてっと富士山頭……漏瑚が来る上に、美々子と菜々子が虎杖に宿儺の指を喰わせて面倒な事になる。やっぱり猶予はあまりねえな。五条が気ィ利かせて倒しといてくれるとだいぶ楽になんだが……普通に考えて無理だろう。あいつどうせ脳みそ野郎追っかけてるし。いやでも流石に宿儺の指の気配がすりゃ動いて……。うーん、あいつ夏油の肉体優先しそうだな……。

「どういう状況だ?」
「さあ……。ただ、恐らく味方……なんでしょう」

 俺と直毘人の手によってぐちゃぐちゃになってる陀艮を視界から外さないようにしつつも、攻撃に参加する余地のねえ真希と七海が不審気に俺を見ている。俺の存在を不可解に思いつつも、とりあえずは戦力として換算して様子見してくれるのは有り難い。それに七海は兎も角として、真希の方は俺に呪具盗られたから攻撃手段がねえし、そのまま離れた所で大人しくしていて欲しいもんだ。
 少しだけ真希達に割いていた意識を陀艮に戻して、徹底的に痛め付ける。じわり、と隙あらば流れ出た血や体表に呪印を描こうとする陀艮を踏み潰して、刻んで、殴りつけて──それでもなお尽きない呪力に舌を巻く。
 花御って呪霊もそうだが、耐久性能にステータスを振ってる特級呪霊は本当に面倒臭え。並の攻撃じゃちっとも削りきれん。俺の場合は呪具頼りになるから、殺傷能力が低い呪具だととどうしようもない。削った側からビデオの逆再生かのように傷口が塞がっていく。……こういう時、久しく抱いていなかった呪術≠ヨの羨望が顔を出す。五条のムラサキとかあれば手っ取り早いのに、と。あと夏油のうずまきとか乙骨のよく分からねえ純愛砲も。
 マ、俺は天が勝手に縛りやがったせいで術式も呪力もねえんだけど。
 無駄でしかねえ無いものねだりをしつつ、早くコイツ死なねえかなと陀艮を切り刻んでいると、遠くからこちらに近づいてきている見知った音≠優秀な耳が拾った。へえ。ふうん。そうか。俺が死んでる世界線でもあいつの音は変わらねえらしい。そら同じ存在だから当たり前の話だけども。
 玉犬と並走するように、地面を踏みつけて走る規則正しい足音。歩幅が同じだし、息の入れるタイミングまで同じで笑いが込み上げた。こりゃ俺に釘を刺してきた五条悟に感謝しとかねえとな。現時点での強さに差はあれど、ここまで同じだと気ィ抜いて俺の¢ァ子扱いしちまいそうだわ。
 切り裂き、刻み、すり潰してまた切り裂いて。流石に勢いの衰えてきた直毘人のフォローを入れつつ、手数でどうにか押し切り続ける。が、この均衡が崩れねえ保証は無い。

「七海さん……! あの人は一体……」
「分かりません。突然現れて真希さんの呪具を奪いまして。どうやら、直毘人さんの知り合いのようですが……」

 さっさとこっち来ねえかな、などと考えながら陀艮をボコボコにしているとようやく七海と真希の元へと伏黒恵≠ェ辿り着いたようだ。ちら、と目を向ければ視線がぶつかる。が、それは一瞬のことで、すぐに恵の目線は陀艮の方へと向けられた。そりゃそうだ。特級呪霊と正体不明の味方らしき人間なら、特級呪霊を警戒するのは当たり前だろう。俺としては自分と似た面してる成人男性にもうちょっと興味を持っても良いと思うが。

「伏黒恵」

 俺に名を呼ばれた恵が、弾かれたように顔を上げる。警戒心でいっぱいのカオをどうも。息子からそんな顔で見られる日がくるなんて考えたことも無かったよ。やっぱ生きててよかったわ、俺。

「ついさっき五条から聞いたけど、おまえ游雲持ってんだろ。コレにとどめ刺すから渡せ」
「──? アンタいまついさっき五条先生に聞いた≠チて言いましたか?」

 呪具云々や俺の存在云々よりもついさっき≠フ五条悟が重大らしい。唖然とした顔の七海や真希が呪霊から目をしらして俺を見る。直毘人は流石に手は緩めてねえが、それでも多少は動揺しているらしい。そりゃそうか、封印されたかと思えばすぐ復活するなんて誰も思っちゃいねえわ。

「安心しろ。五条の封印は解いておいた。今頃夏油傑のフリしてる奴でも殺してるところだと思うぞ」
「はァ? 解いた!?」
「つーか、今はそういうこと言ってる場合じゃねえんだわ。決定打に欠けるからはよ游雲よこせ」
「……どうしますか」

 俺が味方か否か。本当に五条悟の封印が解かれたのか。俺の言葉だけではなに一つ判断がつかねえ状況で、恵はこの場で己よりも階級が上の術師に判断を委ねることにしたらしい。俺と共に攻撃に加わっている直毘人ではなく、七海に問いを投げかけた。だが七海は俺の為人を知らねえ訳で、簡単に特級呪具なんて代物を渡すか否かを答えられる筈もない。とはいえ、特級呪霊をどうにか押さえ込んでいる現状を打破したいはずだ。苦肉の策として「別の呪具を」と言葉を発したところで、ジジイの声がそれを遮った。



 シンプルイズベスト。直毘人の端的な言葉に一も二もなく恵が動いた。呪力が畝り、足元の影が俺のすぐそばまで伸ばされる。

「おし、んじゃまあヤるか」

 影から飛び出してきた游雲の棍を握り、下から掬い上げるように振るって腹を抉る。その間に直毘人は投射呪法を陀艮へ置き土産にし、ちゃっかりと俺から距離をとっていた。ラッキー。今のうちにボコってやろ。
 特級呪具をこちらに渡したとはいえ、術師どもは変わらず俺を警戒している。そりゃそうだわな。それを尻目に、浮き上がったまま停止した体を床に叩きつけるように呪具を振り下ろし、床ごと陀艮をぶちのめした。そうすると当然陀艮は地上に落下するわけで。それに肉薄しつつ、なおも打撃を繰り返す。すんげえ大穴開いちまったけど、まあ建物の被害とか今更だしな。そんなん気にしてもどうしようもない。というよりむしろ、いきなりこんな訳分からねえ状況にぶち込まれたフラストレーションを発散してえし、その辺のコンクリ壊しても良くねえか。なんならその賠償金を禪院家に払わせらんねえかな。こっちの禪院甚爾≠ヘもう死んでっから俺≠ルど禪院家に嫌がらせ出来てねえだろうし、ちょうどいいだろ。
 そうやって若干思考を他所にやりながらも、抵抗を続ける陀艮の動作の出を全て潰す。というよりも動こうという思考すらすり潰していく。領域展開なんて一発逆転が可能なモノを持ってる相手には何もさせねえのが一番だ。力任せに游雲を振るうんじゃなく、相手の内側に衝撃が残るように攻撃を続ける。そうでもしねえと陀艮が吹き飛んで、反撃を許す羽目になるし。

「あんましチンタラやってる暇ねえからさ、さっさと死んでくれよ呪霊」
「我々、には! 私には、名前がッ……!」
「あっそ。知るかんなもん」

 最後の抵抗だと言わんばかりに暴れようとする陀艮の手足を潰し、頭を殴りつける。呪力を回してどうにか耐えようとしてるみたいだが、もうそろそろ耐えきれねえだろう。むしろ天与呪縛のメリットをモロに活かせる特級呪具相手によく耐えた方だ。
 最後の足掻きであろう一発逆転領域展開を目論む陀艮の目玉に無理矢理游雲を突き刺し、防御が薄れたところを殴りつける。そうすれば流石に致命傷だったのか、抵抗が止んだ。というよりも、先ほどまで重く渦巻いていた陀艮の呪力が消滅した。
 それにしてもマジでタフだったな、この呪霊。ジジイと俺にボコられても祓えなかったし、游雲持ち出してやっとって。タンク型の特級呪霊ってやっぱ厄介だな。そんなことを考えつつもサラサラと塵になって消えていく陀艮の死体を視界の端で捉え、自分で開けた大穴をぴょんと飛び上がってジジイ達の待ち構える場所へと向かった。俺を警戒してるのはまあ分かるんだが、今はそれどころじゃねえんだよな。まだ厄介な呪霊が残ってるし。

「甚爾……何故生きている?」
「呪詛師のババアが降霊術で俺を降ろしたんだよ。だから俺は死人のまんまだ」

 陀艮を祓い終えたら、そん次は漏瑚を相手にしなきゃならねえ。そう思って身構えていたんだが、どうも五条が漏瑚に接敵したらしい。五条の呪力が弾けると同時に、ビルがぶっ壊れる音が辺りに響き渡った。アイツ……狗巻が非術師を避難させたからって、なに好き勝手にビル壊してんだよ。馬鹿じゃねえのか。
 ただ、その轟音と呪力の畝りで五条が本当に復活したことを七海達も理解したようで、説明しろと言わんばかりの目で俺を見てきた。まあ言うわけねえんだけど。五条悟に殺された伏黒恵の父親の偽物です≠ニか言ったところで訳わかんねえだけだろ。そういう誤魔化しは事後処理をするであろう五条とかに任せりゃいい。その頃になれば俺は居ねえし。

「つー訳で、おおかたの強え呪霊は五条が片付けてくれるだろうし、非術師の避難誘導でもすりゃどうだ?」
「……確かに貴方の言う通りなんですが、それをするには貴方の存在が不確定要素でしかない。貴方は一体何者なんですか?」

 俺の言葉に難色を示す七海に、どうしたもんかと頭を捻る。俺が陀艮を祓って七海達の手助けをしたことは間違いないし、五条復活の嘘も吐いてなかったこともこいつらは理解している。が、それはそれでこれはこれ、ということなんだろう。急に呪力が皆無の男が味方ムーブしたって信用なんて出来るはずもない。游雲をすんなり渡したことの方が異常だ。
 とはいえこのままこう着状態に陥っていても生産性がない。うまく言いくるめられる方法はないだろうか。なんか適当にでっちあげれば、と。そこまで考えたところでやけに刺々しい気配が俺の真後ろに出現した。随分とイライラしてんな、五条悟。

「こいつは禪院甚爾。結構前に俺が殺した、ただのクソ野郎だよ」
「随分な言い様じゃねえかクソガキ」
「事実だろ。オマエ以上のクソ野郎とかほとんどいないって」

 なかなかに貶してくる五条悟に顔をしかめる。禪院家には俺以上のクソ野郎なんざゴロゴロいるんだが……まあ、そんなことを言っても詮無いから黙っておく。

「まあ強さだけみるなら相当なものだし、こっちの味方をするって縛りもあるからそんな警戒しなくても大丈夫だよ、七海」
「ハア……五条さんがそう言うなら信じますよ」
「ってな訳で残党狩りは僕とコイツに任せておいて、七海たちは負傷者の対応よろしく」

 軽い調子で放たれた言葉と同時に、ポン、と五条に肩を叩かれて視界が一変する。恵や七海の姿が掻き消え、視界いっぱいに呪霊が。しかも呪霊で蟲毒でもしようかってほどの密集具合。俺の記憶じゃ、渋谷にこんだけの呪霊が集まるだなんてことは無かったんだけどな。何がどうしてこうなってる。

「あの偽物が呼び出したこの辺の雑魚はオマエがやれよ。俺、生徒たちの様子見にいきたいから」
「オイ」
「ぶっちゃけそのまま死んでくれてもいいよ」
「オイコラ」

 言いたいことを言うだけ言って、五条はまた瞬間移動でどこぞへと転移しやがった。あんのクソガキが。俺のこと嫌ってるのは分かるが、あまりにも嫌がらせが稚拙すぎねえか。なんだよ、モンスターハウスならぬ呪霊ハウスに置き去りって。天逆鉾持ってたら脳天にぶっさしてたぞ。



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