幕間 伏黒甚爾
──嫁の遺品を整理することにした。どれも捨てるつもりは一切無いが、これから先、ガキ共がデカくなるにつれ家が窮屈になるだろう、と。
本当ならあいつがいた空間をそのまま残しておけるならそうしてやりてえが、そうすりゃガキ共に我慢を強いる羽目になるのは目に見えている。そんなことはあいつが一番許さねえだろうし、俺もどうかと思うから整理すると決めたのだ。マ、気は進まねえってのが本音ではあるが。
つーわけで。まず仕舞うのは、あいつが着ていた服。俺が贈ったものもあれば、俺と揃いにしたいと言い出したあいつが買ったものもある。俺の服装と合わせたのと、あいつが好んでたのは色合いが全く違うから分かりやすい。こっちのスカートは初めて会った時の服で、あれは初めて一緒に出掛けた時のワンピース。
「あー、これか……」
ペアルックがしたいだとかこっ恥ずかしい事を言われて、無理やり買わされたパーカーもある。 結局あれを着て近所のスーパーに行った時は、周りの目が気になって仕方なかったなァ。微笑ましそうな目で見られまくってたし。
あいつが生きていた頃の事を思い出しながら、一枚一枚丁寧に畳む。……そーいや、綺麗に見える簡単な服の畳み方を教えてくれたのもあいつだったか。畳み方がヘタクソだった俺に、真面目な顔で一から全部教えてくれたっけ。あん時のあいつの顔、可愛かったなァ。
なんて、そんな風に考えていると、割とすぐに服の整理が終わっちまった。あとは他には揃いのマグカップだとか、皿だとかの雑貨だ。ガキが出来たからってんで家族3人分のを用意してたが、今じゃ津美紀を含めりゃ4人家族だ。それに嫁のを津美紀に使わせる、ってのは俺の心情的にも津美紀の心情的にもどうかと思うし。新しいのを買った方がいいだろう。割れ物は緩衝材で包んで、小物は小物入れに突っ込んで、それからダンボールに詰めていく。
そうやって少しずつ片付けていけば、思いの外あいつの持ち物が少ねえ事に気付いた。元からあまり物を欲しがらねえ女だったが、あまりにも少なすぎる。
──俺が、あんまり贅沢させてやれなかったせいだなァ。今更後悔したって遅いが、もう少しやり方があったろうに。
「はあ……代わりと言っちゃなんだが、あいつらに不自由だけはさせねえよ」
反省の意を込めて、あいつの仏壇に手を合わせる。あいつは優しい奴だからガキ共が伸び伸びと育つならば、それでいいと笑ってくれるだろう。
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