日々是好日

 現在、圧倒的な人手不足が呪術界を襲っていた。俺の考えていた通り、御三家と国の上層部が足並みを揃えて、呪術界の上を引き摺り下ろしにかかった、まではいいだろう。問題はその後である。当然の如く上層部は素直に引き下がる筈もなく、呪術師の大半が駄々を捏ねる上層部を拘束する為に、方々を走り回る羽目になったのだ。
 家柄的に逆らい辛い術師を巻き込んで、世界を股にかけての大逃走。本当に生き汚え奴らである。メカ丸に予め上層部共の所在や術式などを調べてもらっていてコレなんだから、非常に面倒くさい。だが、五条や夏油、あと意外な事に九十九由基までもが積極的に捕縛しにかかっているので、それは運がいいと言えるか。
 兎も角。通常の任務に加え、逃げる腐ったミカン共の追跡という仕事も増えてしまった術師は、ここ数ヶ月ほどは本当に忙しかった。伊地知は何回かぶっ倒れてたし、灰原からは笑顔が消え、五条からは軽薄さが無くなり、恵は俺に泣きついてきたし、釘崎は肌荒れでブチ切れていたし。ただ、何故か真希と直哉は協力する事を覚えた様で、他の奴らの数倍の任務をこなしていたのは良いことと言えよう。
 そうして呪術界がひっくり返って、上も下も大慌てになってから、暫くして。逃げまくっていた上層部の連中がとっ捕まり、術式の剥奪が順番に行われ始めた。
 厳密に言うならば術式の剥奪というか、夏油が降伏した真人で無為転変しまくってるだけだ。まあ、魂の形を変えて人間の脳を弄るなんぞ、どう考えたって難しいに決まっているが、そこはあの脳みそ野郎が役に立った。
 脳みそ野郎を殺す前に出来るだけ情報を搾り取った結果判明した事ではあるが、あの男は全国各地で非術師に細工を施していたのだ。術師に術式を付与したり、呪物を適合させたり。その中には意識不明になっている非術師もいて……。恐らく、記憶の中で津美紀が寝たきりになっていた原因がソレなんだろう。正体不明で出自不明とか言われていたが、まさか脳みそ野郎が出どころとは。
 だが、その情報がむしろ使えた。無為転変などで非術師に術式を付与するならば、その逆を行えばいい。そうすれば術師から術式が剥奪出来る。……特級術師の夏油傑が更にやべえ術師に進化した瞬間だった。
 その所為で、処刑人とかいう物騒な呼び名がついてしまったんだと。……そりゃ術師からすりゃ、術式を使えなくされるなんざ悪夢みてえだろうしな。
 そんなこんなで。夏油は脳みそ野郎が細工を施した非術師の治療と、上層部の奴らから術式を剥奪するのに大忙しで。五条は、夏油が抜けた穴を埋める為に方々を走り回って。俺や他の術師達は、通常の任務をこなす傍らで、上層部が隠蔽していたヤバめの案件を片していた。
 尚、上層部を捕まえるだけ捕まえた九十九は、任務を一切せずに海外に飛んで行きやがったので一生許さねえ。

「あーーッ!!釘崎、それ俺が育てた肉!!」
「別にアンタの名前が書いてある訳でもないでしょ。いい具合に焼けた時に取らなかったアンタが悪い」
「…………流石釘崎、横暴だな」
「あ゛あ゛ん?何か言ったか伏黒ぉ」

 そんな風に大忙しと言えど、誰だって休みたい。なので、新体制になりつつある呪術界の上の奴らから久しぶりの休暇をもぎ取った五条達は、いつもの様に俺の家に押しかけてきて、庭でバーベキューをし始めた。
 高専の生徒共が大量にいるんだし学校でやれば良いだろうに、なんでウチなんだか。しかも京都校の奴も何人かいるし。

「おかかーッ!!お!か!か!」
「いいじゃねえかちょっとぐらい。ケチだな」
「おかか!」
「取ったモン勝ちだ」
「おっ、いい具合に焼きそばできたな」

 釘崎と虎杖、狗巻と真希。そのあたりがどうにも食い意地が張ってる様で、お互いに焼いた肉を奪い合っていた。丁寧に焼いていた肉を奪われた虎杖と狗巻は抗議しているものの、奪った方はのらりくらりとしている。その隣でパンダは呑気に焼きそばを食い、恵は野菜ばっか食っていた。
 そういうの言ってる間にもっかい肉焼けばいいのにな、なんて事を考えながら、追加の肉を持っていく。当初の予定よりも人数が増えまくった所為で材料がちっとも足りてねえから、さっき買い出ししたんだが。
 ……これは二回目の買い出しもしねえとダメそうだな。昼間から酒を飲む気にならねえし飲酒してない俺が運転係、ってのは確定で、後の買い出し係だが……成人してるやつらはさっきの時点で全員酒飲んでたしなァ。

「サンキュー、先生!」
「うわ、高そうなお肉。先生って意外と高給取りなの?」
「五条がバーベキューしてえって言い出したから、基本あいつ持ちだな。俺はほとんど出してねえ」
「よし……腹一杯食うぞ、虎杖」

 五条の奢りと聞いた途端に目を輝かせた恵が、一気に肉を焼き始める。……成る程、さっきまでは遠慮してたのか。俺が金を出してたら奢り、って感覚にはなれねえだろうしな。奢りで食う肉ほど美味いもんはないのだ。
 あとは単純に担任である五条に振り回されまくって、フラストレーションが溜まってんだろう。もう一年近く前の事だが、宮城で虎杖と出会った時に、ボロボロになった自分の姿を五条に撮られた事を許してねえそうだし。

「高菜ー」
「へいへい。ホラ、コーラと烏龍茶」
「サイダーは?」
「コーラあるからそれでいいだろ」
「おかか!」
「良いわけねえよ」
「サイダーとコーラは別物だぞ」

 一年共に肉を渡した後、こっちにも肉を寄越せとアピールしてきた二年共の方に肉と飲み物を渡したんだが。どうやらコーラとサイダーは全然別物らしい。狗巻だけじゃなく真希とパンダまでが文句を言ってきた。
 もっかい買い出しに行く時に買ってきてやるから、とどうにか宥めたものの、追加で大量の肉と野菜を買ってこいだと。……一年生も二年生も、東京校の奴らは随分食い意地が張ってるな。

「ほら、憲紀。レバーよ」
「ま、待て真依。これ以上皿に盛らないでくれ」
「つべこべ言わずに食べなさい。じゃないとアンタまた貧血でぶっ倒れるわよ」
「いや、純粋にもう入らな……」
「食べなさい」

 それに比べりゃ随分とマシだろう。ワイワイ騒いでいる東京校の奴らから目を移すと、片っ端から焼けたレバーを憲紀の持つ皿に乗せていってる真依と、どうにかそれをやめさせようとしている憲紀が目に入った。
 東京にたまたま居たからという理由で参加してるが、まあ割と楽しんでいる様で何よりだ。
 何せ、御三家の足並みを揃えさせる為に、五条も直毘人も、次期当主である憲紀を話し合いの場に着かせたのである。上層部と懇ろな加茂家の現当主よりも、新しい世代の憲紀の方が前向きな話し合いができるだろう、と思ってのことだ。
 急に五条家の当主と禪院家の当主との会談の場に引っ張り出された憲紀としては、気が気じゃなかっただろう。真依が言ってた通り、一回ぶっ倒れてたみてえだし。
 そういう訳で、学生の中じゃ一番忙しい思いをしていた憲紀が元気にしているのはいい事の筈。……真依に揶揄われてるが。

「お野菜焼けたよ、津美紀」
「こっちはしいたけ焼けたよぉ」
「ありがとう、美々ちゃん、菜々ちゃん」

 んで、その隣では津美紀と美々子と菜々子が、何やら鉄板の上で料理をしていた。後ろから覗き込む様にして津美紀の手元を見ると、どうやらチャーハンを作っているらしい。
 パパも食べる?と言った津美紀の言葉に甘えて、素直に皿を差し出した。昔は俺のが料理が上手かったってのに、今じゃすっかり津美紀のが上手え。家事を任せっぱなしにしてしまった弊害だろうか。
 あとは津美紀が案外凝り性だってのも関係あるな。

「パパ、お肉いっぱい買ってきてたのにすぐなくなりそうだねぇ。次は美々子達が買いに行こっか?」
「車に買ったもん積んで帰るから、俺が行くし心配すんな」
「あ、じゃあマシュマロとか買ってきて。焼きマシュマロしたい!」

 ちゃっかり欲しいものを伝えてきた菜々子に便乗して、津美紀がクッキー、美々子がメロンソーダを要求してきた。他はいるか、と聞いてみたが別にいらねえらしい。なんとも無欲な事だ。肉を大量消費している奴らに見習わせてえ。
 皿の上に山盛りに盛り付けられたチャーハンを津美紀から受け取って、一旦室内に引っ込む事にした。買い出しに成人した奴らを連れて行きてえんだが、あいつらは全員リビングで酒盛りをしているのだ。

「ゆ、悠仁たち元気だなぁ……」
「朝からずっとあのテンションなの凄いよね。元気といえば先生達もそうだけど」
「昨日まで任務ばっかりしてたのに凄いや。僕はもうついていけないよ……」

 ウッドデッキの方へと向かうと、そこに座り込みながら、順平と乙骨がやいのやいのと言い合っている同級生達を眺めていた。意外、という訳でもねえが、この二人は割と気が合うらしい。
 どっちも元々はいじめられっ子だし、ダブってるから同級生達よりも一つ年上ってのも同じだし。なんなら一般人だったってのも同じだ。そう言う共通点があるから、学年の差があれど仲良く出来てるんだろう。
 そうやってのんびりとしている二人を尻目にリビングへと向かうと、彼らとは対称的に大騒ぎしている声が聞こえて頭を抱えたくなった。昼間から酒盛りしているアホ共め、虎杖達よりもうるせえぞ。

「フラれたぁーーーーッ!!!!うわあぁん!!」
「ウハハハハ!!振られてやんのーッ!!」

 なんだなんだと様子を伺ってみれば、天内が大声で泣き喚き、五条が上機嫌で爆笑している。周りの奴らはその二人を無視していたり、どうにかしようとしていたり。昼間の時点でこれとか地獄じゃねえか、まだ二時にもなってねえぞ。

「ちょっと、誰が理子ちゃんと悟に酒飲ませたの」
「私」
「…………硝子さぁ……」
「良いだろ偶には。ここの所、任務ばかりで気が滅入ってたし」
「あの二人に絡まれるの私なんだけど?」
「あの、天内さん。落ち着いてください」

 大号泣している天内をどうにか宥めようと夏油と七海が苦心しているが、当の本人は泣き止む様子が一切ない。こういう時に一番役立ちそうな灰原は既に酔い潰れて夢の中だし、黒井は新婚で居ねえから頼れねえし、どうしたもんかね。
 とりあえず天内の好物でも口に突っ込んでおくか、と冷凍庫からアイスを取り出して、天内に差し出すと泣きながら食いつく。泣くか酒飲むかアイスを食うか、どれか一つにしとけよ。

「五条も夏油も、みんな顔だけはいいから悪いのーー!なーにが、本当はあのイケメンが好きなんだろ?じゃ!誰がこんな顔だけのやつら!!」
「オイ言われてんぞ傑」
「言われてるのは悟だろ」
「どっちもだよ、このクズ共」

 津美紀作のチャーハンを食いながら天内の話を聞いていると、どうやら天内がデート中に五条と夏油の二人に遭遇しちまったらしい。んで、恋人の方が二人の顔の良さに腰が引けて、別れを切り出した、と。
 まー、普通の男なら高身長のイケメンが彼女と親しくしてる、って知ったら自信なくなるわな。だからってそこで引いちまうのはどうかと思うが。
 今回は天内の男を見る目がなかった、っつー事でいいだろ。次の男がいい奴かもしれねえし。

「本当に好きだったのにぃ……!」
「理子、今度合コンしよう。医学部で一緒だった奴ら呼ぶから」
「しょ、硝子ちゃん……!!!」

 家入の言葉に天内が余計に泣き出した。友情に感激しているらしい。頑張って新しい人見つけるね、とべしょべしょになりながら宣言していた。
 一方でアホな奴ら……五条と夏油は医学部という言葉が気になる様で。あれだけ馬鹿みたいの笑っていた五条が、突然真面目な顔付きになった。なに閃いた、って顔してんだよ。

「女医……」
「いや、ナースも捨てがたいよ」
「お前ら二人はお呼びじゃないからな」

 天内の為に合コンするっつってんのにおまえらを呼ぶ訳ねえだろ、と案の定、家入に切って捨てられていた。そもそもこいつらの場合、マジで家庭を持ちたいのか、それともただ遊びたいのか。
 まあ恐らくただ遊びてえだけなんだろうが。やいのやいのと家入に文句を言っている二人を呆れつつ眺める。記憶の中じゃ、ここにいる面子で生きてるのは家入と五条だけで、それを考えるとまあ賑やかで良いのだろうが。それにしたって、記憶の中より全員が馬鹿になってる気がすんな。

「そういやまだ肉が足りねえんだと。誰か手伝え」
「私がいきます」
「駄目だよ七海。私が行くから君は灰原や悟の様子を見ていて」
「五条さんの面倒を見るなら夏油さんが適任では?」
「それにほら、私の方が力持ちだし」
「夏油さんはすでに結構な量を飲んでらっしゃいますよね。甚爾先生に迷惑を掛けるつもりですか?」

 酔っ払い共、と言うより五条の相手が面倒なのか、夏油と七海がほぼ同時に買い出しに立候補した。しかもよっぽど面倒を見たくないのか、言い争いがどんどんヒートアップしている。それを面白がって家入が囃し立てるし、五条も乱入するしで、これはもう絶対収拾がつかないやつだろ。
 ちら、と寝っ転がってる灰原を見てみるが、この喧騒の中でもピクリとも反応せずに寝ているし。号泣してた天内を連れて行くのもなァ。
 暫くの間言い合いが収まらねえかなァ、とか思ってチャーハンを食いながら待っていたが、思った通りちっとも落ち着きやしない。なんなら、買い出しに行く為に飲み比べとかも始まっちまった。馬鹿がよ。
 このまま待ってたらひでえ酔っ払いが着いてくる事になるだろうし、なんなら買いに行く前に日が暮れちまいそうだし。……だったらいっそのこと、荷物持ちが居ねえ方がいいか。

「親父、先生たちは?」
「酔っ払い共を待ってりゃいつまで経っても買いに行けねえし、一人で行った方がマシだろ」
「七海さんまで酔っ払ってるのって珍しいねぇ」

 俺だけで買い出しに行くか、と盛り上がってる奴らを放置して車庫の方へと向かうと、目敏く俺を見つけた恵と津美紀が寄ってきた。恵は肉の取り合いに疲れたらしい。で、津美紀の方は俺を探してたんだと。

「私も着いていっていい?久しぶりにパパとお出かけしたいの」
「そう言われりゃNOとは言えねえなァ」

 誰に似たかは分からねえが、津美紀の奴、口が上手くなりやがって。甘え上手っつーか、なんというか。ニコニコ笑いながら助手席に座る津美紀に苦笑いをし、そのまま車に乗り込もうとすれば、なんかしれっと恵が後部座席に座ってんのを発見した。
 さも当たり前ですとでも言いたげな顔で座席に座り、お行儀よくシートベルトまで付けている。思わず津美紀と顔を見合わせると、そんな俺たちの様子にカッと顔を赤らめた恵が声を荒げた。

「津美紀と!最近買い物に出掛けてねえからだ!!親父は関係ない!!」

 ……誤魔化す為に言ったんだろうが、それはそれで相当恥ずかしい事言ってねえかおまえ。


 ※※※


 昼間の喧騒が嘘の様に、家の中は静かだった。明日も休みであるがその次の日は普通に学校があるから、と学生達は寮に戻ったり京都へ帰っていったり。大人共は酒でベロンベロンになりながらも自宅に帰ったり、追加で飲みに行ったり。各々が帰る場所へと帰っていった。
 で、俺は昼間飲まなかった分、一人で酒を飲んでいる。騒がしくするのもいいが、こうやって落ち着いて飲む酒も美味えもんだ。

「うるさかったろ」

 真依や憲紀が買ってきた京都の土産を仏壇に供え、写真の中で微笑む嫁に話しかける。いつ見たって可愛い顔してら。
 人当たりのいい嫁なら、騒がしかろうが楽し気にケラケラと笑ったはずだ。んで、恵のクラスメイトに積極的に話しかけて、恥ずかしいからやめろって言われる所まで想像できる。
 ……想像出来ちまうから、なんとも苦しい。ここ一〇年以上、騒がしいし忙しい日常を過ごしてきたが、それでも嫁との暮らしを明瞭に想像できる。いつでもすぐに、恵さえ産まれていなかった頃の暮らしを思い出せた。
 何回か、さっさと死んだ方が手取り早いだろうか、と考えた事もある。だってガキがいようが、嫁がいねえなら意味がない。
 だが、急に思い出しちまった前世の記憶のせいで、そこまで無責任な選択を取れなくなった。いくら嫁がいねえといえど、小せえガキをほっぽり出して自暴自棄になるのは無理だ。最低でもガキ共が大きくなってから死ぬべきだろう。
 そんな風になんとなく思いながら一〇数年を駆け抜けて。目下、最大の敵である脳みそ野郎を倒し、呪術界の膿を粗方潰し終えたこの頃。
 もうそろそろ良いだろうか、と思うようになってきた。恵は領域展開を出来るようになったし、津美紀は家事全般熟せる。美々子と菜々子の双子だって徐々に一人ずつ自立出来ているし、真希と真依に関したってそうだ。
 別に俺が居なくなって、全員どうにか生きていける。

「……とか言って、そっち行ったら馬鹿みてえに怒るんだろ」

 嫁の怒り方はそりゃもう凄い。誰かの事を思い、俺の事を思い、泣きながら懇々と説教してくるのだ。アレは何回されたってキツい。ただでさえ泣かせたくねえのに、俺を思って泣く訳だから余計に俺のミジンコ並の大きさの良心だって痛む。
 だからこそ、出来るだけ嫁に怒られる様な真似はしたくない。ついでに言うなら、死んだ後にまで説教とか流石に御免被る。

「多分病気にもならねえだろうし、最低でも後六〇年ぐらいは生きるだろうな」

 そうやって自分で口に出しておいて、随分と長えな、と嫌になった。だって今の時点で嫁が死んでから一〇年と少ししか経ってねえってのに、死ぬまで六〇年だ。どんだけ長えんだよ馬鹿野郎。
 でも死んだら泣かれて怒られるだろうし、最悪、あの世で口をきいて貰えないかもしれねえし。それだけは御免被るかた、仕方なく、あの世で会う為に残りの人生を生きるしかない。
 まあ息子も娘もいるし、手のかかる生徒共もいるから退屈しねえ人生にはなるだろう。ただ一点、アイツがいないだけだ。……その一点がどうにも苦しいんだが。

「だから、ちゃんとそっちで待ってろ」

 すぐじゃねえし、嫁みてえに天国に行ける訳がねえから、多分六〇年どころじゃない時間が掛かるだろうが、何が何でも会いにいってやるから覚悟しておけよ。



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