幕間 伏黒恵
「伏黒恵。お前に聞きたい事がある」
その男を見た時、アッやべえな、と思った。
親父が気ィ付けろよ、と珍しく忠告してきたヤツだ。筋骨隆々で顔面に傷があり、髪を一つ縛りにしている大男。あの九十九さんの弟子且つ、親父の弟子でもある、東堂葵だ。
「どんな女がタイプだ」
何か言われる前に耳を塞いで聞いてねえフリをしようとしたが、それよりも東堂が声を発する方が早かった。親父が心底面倒くせえと言い、夏油さんが無視しても良いと言っていた例の質問。
好きな女のタイプ。
正直、女兄弟しか居ねえ俺にんな事聞くんじゃねえよ、としか思えない。下手な事を言えば真依から津美紀やミミナナに伝わっちまうし。
そうなれば地獄でしかないだろ。絶対家族で集まった時に揶揄われる。特に菜々子ならえげつねえ揶揄い方をするに決まってるから嫌だ。言いたくねえ。
「因みに俺は身長と尻がデカイ女がタイプです」
「嫌です。少なくとも初対面のアンタには言いません」
「そうよ、ムッツリにはハードルが高いわよ」
隣でいらねえチャチャを入れてくる釘崎はなんなんだ。俺の味方をしろよ。誰がムッツリだ。
思わずギロリと釘崎を睨み付けたが、素知らぬ顔をされる。クソ。
「京都三年東堂葵。自己紹介終わり。これで友達だな、早く答えろ。男でもいいぞ」
「友達じゃねえ」
「性癖にはソイツの全てが反映される。女の趣味がつまらん奴はソイツ自身もつまらん。……俺はつまらん男が大嫌いだ」
話聞いてんのかこのゴリラ。懇々と持論を語り始めた東堂を呆れた目で見るが、一切こっちの事を気にしてねえ。無敵じゃねえかよ。
ちら、と東堂の後ろに立ってる真依に目線を送ってみるが、一切の反応がない。京都に行くと人のこと無視するのが当たり前になるのか……?お前、京都に行ってからふてぶてしくなっただろ。
「交流会は血湧き肉躍る俺の魂の独壇場。最後の交流会で退屈なんてさせられたら、何しでかすか分からんからな。俺なりの優しさだ、今なら半殺しで済む。答えろ、伏黒。どんな女がタイプだ」
この場合何が正解だ。流石に真依は暴れねえだろうが、東堂なら機嫌を損ねりゃ暴れ回りそうな感じだろう。まあ、暴れられた所で俺は多分問題ない。
が、丸腰の釘崎が巻き込まれるのは……。でも答えたくねえ……。変なこと言えば家庭内での地位が暴落しちまう。クソ、せめて真依がいなけりゃ良いのに。
「……友人でも何でもねえ浅い付き合いの奴には言いません」
「俺とオマエは友達だろう、伏黒」
「違います」
記憶を捏造すんな。親父の弟子ってのは知ってるが俺たちは初対面だよ。至極真面目な顔でそんな事を言うもんだから、いっそ恐ろしい。
「恵」
「……なんだよ、真依」
「私とあなたは浅い付き合いじゃないわよね。だから好みの女のタイプを教えなさい」
「…………はァ?!」
「あ、確かに私も同級生だし浅い付き合いじゃないわね。私にも教えなさいよ」
唐突に裏切った二人の言葉に目を剥く。四面楚歌じゃねえか。真依なんてスマホ掲げて撮影の準備まで万端だし、釘崎はニヤニヤした顔で俺を見上げている。
……なんでだ。なんで東堂じゃなく俺が追い詰められてる?どう考えたっておかしいだろうが。
逃げてやろうかと少しだけ後退りしたのだが、それに気付いたらしい釘崎に腕を掴まれて、逃げようにも逃げられない。クソ、と見下ろせば心底楽しそうに嗤う釘崎の顔。
せめてお前は同級生なんだし俺の味方をしろよ。
「くそっ……。…………性格が、キツくない人がいい、です。……ほら言ったから離せよ」
「ケッ、つまんない回答ね」
「あ゛?」
とりあえず絞り出した適当な言葉を釘崎にバッサリと斬られる。ふざけんな馬鹿正直に言う訳ねえだろ、これで納得しろよ。
「甚爾さん情報だと清楚系が好きなんでしょ」
「なんで真依が知って……じゃねえ、あンのクソ親父……!!」
「ほう、清楚系か」
「やっぱアンタむっつりじゃない」
だからなんで俺がこんなに追い詰められてんだ。おかしいだろ。
prev/next
[Back]/[Top]