我逢人
数ヶ月振りに親父と任務に出ることになった。本来なら同級生達と任務に出る筈なのだが、一級術師の俺とあいつらとじゃ階級が違いすぎる、という理由で、あいつらの初任務以外は一緒の任務に行けていないのだ。
折角同級生が増えたのに……と思ってみても、仕方がないものは仕方がない。万年人手不足の呪術界に於いて、等級が高い人間を下位の任務に付けるメリットなどほぼ皆無。昇級の審査で上位の術師が同行する、という程度だ。親父と任務に行けるだけまだいい方だ、と諦めるしかないだろう。
「任務の概要は?」
「奥多摩にある廃校で怪談が流行ってんだが、そこに居るんだってよ」
「一級か?」
「特級になりかけじゃねえかって話だ」
どこか愉しげに言う親父に頭を抱えたくなる。なんで特級案件をそんな顔して受けんだよこの人。確かに一級術師が特級案件をこなさなきゃならねえ時はごく稀にあるが、誰が好き好んで受けるんだ。その為の特級術師だってのに。
だがまあ、こういうイカれ具合を見ると俺はまだまだだな、なんて思う。俺は五条先生や夏油さんみたいに、我が儘を貫く為だけに大暴れなんてしないし、真希先輩の様に呪霊を祓いまくって自分の強さの再確認をして楽しむ、なんて事もできない。
「午後は特に予定も無えみたいだし寄り道して帰るか?」
「ん。奥多摩だよな。何があったっけか……」
車を運転している親父に聞いてみると、肩を竦められたので、大人しくスマホで検索する事にした。やりたく無え特級案件だが、まあ親父がいるなら滅多な事にはならねえ筈だから、一人でやる任務より随分と気分が軽い。
出来るだけさっさと終わらせて、美味い飯でも食わせてもらおう。なんて考えつつ、キーワードで検索をする。奥多摩、グルメ、おすすめ。
「奥多摩で絶対食べたいオススメグルメ……」
「お、何がある?」
「釜飯、肉料理、そば、天ぷら、鹿肉……鹿肉?」
「へぇ、鹿肉料理の店あんのか」
検索結果の上の方にあったリンクを踏んで、出てきた店の料理を口に出していくと、親父も俺と同じ所が気になったらしい。……鹿肉料理か。馬刺しとかラム肉なら食った事はあるが、鹿肉は食った事は無え。美味いかどうか知らないが、単純にどんな味か気になってきた。
親父の方を見遣るとそこで良いんじゃねえか、と返答が。じゃあ、帰りの飯は鹿肉料理に決定だ。
「飯食う以外はいいのか」
「あんま興味をそそられるもんがねえ」
「あー、じゃあドライブ」
「……有りだな」
補助監督の送り迎えじゃ寄り道なんて出来ないし、偶にはのんびりと風景を楽しむのも良いだろう。運転している親父を尻目に、適当にカーナビに目的地を設定してルート検索でもしようか。
山ばっかりだと風景があんま変わんねえし、奥多摩湖の方にも行けば良いかもしれない。そんな事を考えながら、渓谷やダムなどを中心に設定していく。
途中、親父がカーナビを操作するのを邪魔してきたので、腕をぶん殴る。が、全く効いていないらしく、そのまま親父が近くのコンビニを検索するのを苦々しげに見つめた。
「邪魔すんな」
「ポテチ買おうぜ。あとはコーラ」
「遠足じゃねえんだからんなもん買うなよ」
小学生かよ、とまでは言わねえが。
ナビで辿り着いたコンビニで大量のお菓子と飲み物を買った親父は、ポリポリとスナックを食いながら運転し続ける。特にする事もないので、そんな様子をじっと見つめた。
コンソメ味のポテチ食いてえな、だとか。さっきのコンビニでポップコーンも買っておけば良かった、とか。
ぼけっとしながらそんな事を考えていると、横目で俺を見た親父と目が合う。なんだよ急に。
「さっきから物欲しそうに見てっけど、遠足気分じゃねえ恵はポテチ食わねえもんな?」
「…………」
「サイダーも美味えけどいらねえよなァ。真面目な恵は任務中だから」
「……チッ」
ほれほれサイダーもあるぞ、とか言って俺を揶揄ってくる親父からペットボトルを強奪する。クソ、大人気ねえ奴だ。
五条先生や夏油さんの影に隠れて分かり辛いが、親父も大概愉快犯だ。いい歳してる癖にこういう事してくるからムカつくんだよな。
「のり塩はいるか?」
「食う。あとサイダー」
「へいへい」
ポテチの袋に手を突っ込み、取れるだけのポテチを掴んだ。ムカつくから全部食ってやろう。
「最初っから食っときゃいいのにな?」
「うるせえ。前見て運転しろ」
「前見てるわ」
クソ、運転中だから殴れねえ。とりあえず車から降りたら絶対一発殴ってやる。
などと考えていたら、急にスマホに通知が入った。送信者の名前は虎杖悠仁。そういえば、もうそろそろ昼休憩ぐらいか。授業が終わって暇になったんだろうな、なんて通知を見て思った俺は、アプリを開いた。
そして。
「あ゛?」
虎杖からのラインに目を見開く。取り留めのないやりとりの中に挟まっている、任務の文字。“特級に変態する可能性のある呪胎の存在する施設で、生存者の確認と救出の任務”、なんて。
「……恵。なんかあったか?」
んな事あっていい筈がねえ。釘崎は三級術師、虎杖は並外れた身体能力があるが素人に毛が生えた程度。幾ら呪術師が人手不足っつったって、あいつらを特級案件にぶち当てるなんて殺す気か?
こっちの特級案件に人員を俺と親父の二人割くんじゃなく、別個で特級案件の任務を充てがえばいいだろうが。なんでわざわざ俺たち二人で……。
ああ、違う。上層部の奴ら、虎杖を殺す為にわざわざ俺と親父を引き剥がしやがったな。この分だと五条さんも夏油さんも介入できねえ様、遠方に飛ばされてると見ていいだろう。
……クソ野郎共が。
「親父」
「ん」
「虎杖達の所へ向かう。こっちのは任せていいか?」
「構わねえよ。五条にも連絡入れとこうか?」
「頼んだ」
皆まで言わずとも何となく察してくれたらしい。親父が即座に路肩に車を寄せてくれたので、外に飛び出し、呼び出した鵺に乗る。
そのまま影から緊急用の呪具を取り出して、空路であいつらの元へと向かう。目的地は西東京市。奥多摩から鵺で飛ばしまくって、およそ三〇分かかる距離だ。
……一応釘崎にも出来るだけ任務を受けるのを渋れ、と連絡を入れてみたが、虎杖を殺す為に裏で手を回している連中がその程度で引く訳がねえ。同情心でもなんでも誘って、あいつらを任務に向かわせる筈だ。
それにどこか甘ったれた所のある二人なら、生存者の救出、なんて言われちまえば一刻でも早く誰かを救う為に行動するだろう。ああ、あのお人好し共め。そんなんだからいい様に使われんだよ。
嫌な予想ばかりが頭を過ぎる。ふざけんじゃねえ。
※※※
「“玉犬”!白は虎杖を、黒は釘崎を探せ……!!」
鵺から飛び降り、呪霊の生得領域を駆ける。玉犬の反応をみるに、俺の位置から近いのは釘崎だろう。一瞬だけ逡巡し、虎杖の事は白に任せて、俺は黒の後を追った。
確かに釘崎の方が虎杖に比べて呪術師としてのキャリアは長いが、アイツには残弾の概念がある分、どうしても不安要素が残る。何せアイツが所持している五寸釘が無くなれば、釘崎は丸腰と同じだ。しかしその点、虎杖にはあの身体能力がある。恐らく逃げに徹すれば釘崎よりも生存確率は高い筈だろう。
どうにかこうにか焦りを抑えて走る。ぎゅうと肝が縮まる感覚がして、嫌な汗が流れた。……こんな感覚に陥るのは初めてだ。
確かに、今までに何度か知人が死んだことはある。高専で出会った年上の術師や窓が殉職した。呪霊絡みの事件に巻き込まれて死んだ非術師の顔見知りだっている。
だが、友人と呼べる人間の命の危機に対面するのは初めてだ。死んでいった知人たちよりも余程出会って間もない奴らだし、打ち解けたと言うには知らない事が多すぎる。でもアイツらは、これから友情を築いていく筈の奴らだったから。
……昔から夏油さんと五条先生の関係が羨ましかった。あれだけ頻繁に喧嘩してボロ雑巾みたいになってる癖に、次の日にはケロッとした顔で馬鹿をやってる所が。
それとは別に、灰原と七海さんの関係も羨ましかった。二人揃えば、どんな呪霊であっても危な気なく祓えるという安心感。阿吽の呼吸ってのはああいうのを言うんだろうなって。
双子達は家族だから別枠として、そういう気の置けない対等な友人関係を見て羨望していたからこそ、やっと得た同級生の事を無自覚のうちに……想像以上に気に入りすぎていたらしい。式神使いの俺が後衛で、前衛を虎杖がして。敵の一部を玉犬に噛み千切らせて釘崎に渡せば、どんな格上だって倒せるんじゃないか、とか。呪術師が当たり前に死んでいくと知っていながら、そんな風に呑気な事を考えていた。
「ワンッ」
「っ!何処だ?!」
黒の鳴き声に、思考を戻す。近くにいる筈だと目を凝らせば、随分と離れた所で無数の呪霊と相対している釘崎が見えた。……良かった、生きてる。釘崎の方も玉犬の声が聞こえたのか、少し驚いた顔でこちらを振り返った。多少傷は負っているみてえだが、想定してたよりも随分とマシだ。
黒を先行させてその後ろを追いながら、影絵を作り上げる。つい最近調伏した、一番早い式神だ。
「“鎌鼬”!斬り伏せろ」
俺の足元の影から飛び出した鎌鼬は、前を走る玉犬を追い抜き、一瞬にして釘崎を取り囲む呪霊を切り刻む。その間に釘崎の下にたどり着き、走っている勢いを殺さぬまま彼女を抱え上げた。
「悪い、遅くなった」
「……ありがと。助かった」
「このまま虎杖のところに向かうが平気か?」
「アイツ、私がここから脱出したら宿儺に代わって呪霊を倒すって言ってたけど……」
釘崎のそんな言葉に、どうしたものかと思考を巡らせる。丁度、釘崎を抱え上げたと同時に、虎杖の方へと向かわせていた玉犬・白の反応が消え失せたのだ。恐らく、虎杖が対峙していた呪霊にやられたのだろう。
……ならば、今から俺が虎杖の方へと向かったとして、アイツが死ぬ前に辿り着けるのか?いっその事、釘崎を連れて即座に離脱した方が余程生存確率が高い。……両面宿儺に代わるという行為はリスクが高すぎるが、でも……。
ああ、考えている時間が惜しい。さっさと行動に移せ。
「一旦脱出する。で、釘崎は高専に戻って治療して貰え。頭怪我してんだろ」
「アンタはどうすんのよ」
「万が一の為に虎杖を待つ」
鎌鼬が粗方の呪霊を祓ったのを確認した後、鎌鼬を戻して鵺を呼び出す。このまま俺が釘崎を抱えながら走ってもいいが、頭を怪我してんなら揺らさねえ方がいいだろうし、鵺で飛んだ方が手っ取り早い。
釘崎の体の負担にならねえ程度に速度を制限しながらも、出来るだけ急いで外を目指した。
「なんでアンタが怖がってんのよ」
「うるせえ」
「……否定しないのね」
ちら、と腕の中の釘崎を見ると呆気にとられた顔をしている。俺の私情で生き延びさせた奴が死にかけてんだから、憂虞ぐらいするに決まってんだろ。
玉犬に道中の呪霊を蹴散らして貰いながら、外で待っているであろう伊地知さんの下へと向かう。さっきは想定したよりもマシとか思っていたが、どうやら頭部へのダメージがでかいらしい。徐々に口数が減って、体に力が入らないのか脱力してきている。
そんな風に釘崎の様子を伺いながらも空を飛び、遂に呪霊の生得領域を抜け出した。その瞬間、玉犬の遠吠えが周囲に響き渡る。虎杖ならば、これが領域を抜け出した合図だと気付いてくれる筈だ。
「ふ、伏黒君!」
「伊地知さん。すみませんが釘崎をよろしくお願いします。頭をぶつけてるみたいで……」
「かしこまりました。伏黒君はどうするんですか?」
「ここに残ります。あと、もしもの為に避難区域も一〇qまで拡大してもらっていいですか?」
玉犬の声に反応して、少年院のギリギリまで車を寄せてくれた伊地知さんに、軽く事情を説明して釘崎を預ける。
「他に何かすることはありますか?」
「釘崎を病院に送った後、もし余裕があれば親父を拾ってきてほしいんですけど……」
「わかりました。お気をつけて」
「はい」
遠ざかる車を見送り、奥歯を噛み締めながら溜息を吐く。クソ、全部後手に回りすぎだ。初めからあいつらと同じ任務に同行したい、と無理を通せば良かった。
今更後悔しても遅いってのに。行き場のない感情を吐き出すように、虎杖がいる少年院を睨みつけた。
虎杖が虎杖のまま戻ってくる保証はないし、そもそも両面宿儺に代わる前に殺されている可能性だってある。玉犬・白だって倒されたんだ。虎杖の現状はほとんど分からない。
……五分だ。五分間だけ待って、呪霊が倒されなければ、戻ろう。両面宿儺がいたとしても、指が二本分の強さの筈だし……。その強さがどれ程の物かは分からないが、親父なり五条先生が来るまで持ち堪えるぐらいはしてみせる。
そんな事を考えながら呪力の温存の為に玉犬を戻し、少年院の建物を見つめた。するとその直後、呪霊が死んだのか、少年院の建物を覆っていた生得領域が閉じた。ひゅ、と息を呑み込む。
「虎杖なら戻らんぞ」
辛うじて反応し、振り返った先には五体満足の状態で俺を見据える両面宿儺がいた。もしも、が実現している。こいつは虎杖じゃねえ。
……何故、両面宿儺が自由に行動できる?主導権は虎杖にある筈だろうが。けれど、例えば虎杖の精神が既に死んでしまったならば。
嫌な想像をしてしまって、こめかみから汗が流れ落ちていく。
「そう脅えるな、今は機嫌がいい。少し話そう」
「…………」
「なんの縛りもなく俺を利用したツケだな。俺と代わるのに少々手こずっている様だ」
両面宿儺の言葉に、内心少しだけ安堵した。虎杖が代わるのに手こずってるって事は、あいつの精神が死んだわけじゃねえって事だ。
だったら時間さえ稼げば虎杖は戻ってくる。さっき両面宿儺が俺の近くにやってきた時のスピードを見るに、あれなら避けられるだろう。なんなら本気の親父の方がよっぽど早い。
「しかしまぁそれも時間の問題だろ。そこで俺に今にできる事を考えた」
「……?」
「虎杖を人質にする」
そう言うなり虎杖の胸部に腕を突っ込んで、心臓を取り出した両面宿儺に歯噛みする。更にはダメ押しとばかりに食った宿儺の指に、舌打ちを隠すことが出来なかった。
流石呪いの王、嫌がらせが的確で吐き気がする。これじゃ、虎杖が肉体の主導権を取り戻した瞬間に、家入さんに治療を施して貰わないといけなくなった。……若しくは、両面宿儺本人に心臓を直させるか。
だがまあ、家入さんに治療してもらうってのは現実味が無さすぎる。そうなると両面宿儺に心臓を治させる、という選択肢しかない訳で。呪霊と接敵した時に虎杖の腕が飛んだと釘崎が言っていたし、今五体満足なあいつが反転術式を使えるのは間違いないから、それはいい。
問題は、どうやって治させるか。
「さてと、晴れて自由の身だ。もう脅えていいぞ。殺す。特に理由はない」
「……あの時と立場が逆転したな」
呪術規定に則り、オマエを祓う。あの時俺が吐いた言葉がまわり回って返ってきやがった。
……俺が規則を曲げてでも生かすと決めたんだ。その為に五条さんはもちろん、親父にも無理をさせたし、恐らく夏油さんも一枚噛んで無茶をしてくれた。
その俺が虎杖が生きるのを諦める訳にはいかないだろう。
「虎杖は戻ってくる。その結果自分が死んでもな。そういう奴だ」
そう言う奴だと信じてるから生かしたんだよ。両面宿儺が買い被りすぎだのなんだの言っていようが関係ない。俺が信じ始めたんだから、それを貫くだけだ。
だから今、俺がすべきはこの状態の両面宿儺を抑え込む、若しくは圧倒すること。心臓がなけりゃ俺を殺せないと両面宿儺に思わせて、あいつに虎杖の心臓を治させる。呪いの言葉なんぞに耳を貸す必要は無え。
「折角外に出たんだ。広く使おう」
※※※
……私情ぐらい貫き通せよ。
「怪我はどうだ」
「結局アンタのが重症だったんでしょ。なんともないわ」
「……そうか」
呪術界なんて魔窟に招き入れずに、何も知らないまま苦しまずに死なせてやっていれば良かったんじゃないか、なんて最低な考えが脳裏に浮かんでは消えていく。
「アイツ、なんか言ってた?」
「長生きしろよって。俺も、オマエも」
「ふん、自分が死んでりゃ世話ないわよ」
七海さんが昔言っていた言葉を思い出す。呪術師はクソだ。俺をこいつらと行動を共にさせなかったのは、虎杖を殺す為。俺がいれば殺せないと踏んだからこその妨害。
……アイツなら死なないだろう、なんて無意識のうちに思っていたのだろうか。思い違いも甚だしい。
「アンタ、大丈夫なの?」
「……あんまり」
「……伏黒のこと、もう少しドライな奴かと思ってた。だって昔から五条先生とか甚爾さんと一緒に術師してたんでしょ?」
想像以上にキツい。釘崎だって泣きそうなのを我慢してるってのに、そんな奴相手に弱音を吐くなんざらしくねえ。
「あの二人が居て、目の前で仲間が死ぬ筈がねえだろ」
「それもそっか。……強いものね、あの人達」
「俺たちが弱すぎんだ」
恵はいつ特級術師になるの?なんて。酒の席で酔っ払った五条先生が言った言葉が、今になって刺さってきた。一級術師がなんだよ、もっと強くないと意味がねえ。
俺がもっと強ければ、宿儺に心臓を治させる事ができた。俺がもっと速ければ、虎杖が宿儺に代わらずに済んだ。……俺がもっと、もっと強ければ良かったのに。
「強くなんないとね」
「ああ」
※※※
そんな風に、伏黒恵と釘崎野薔薇が決意を新たにしている事などつゆ知らず。虎杖悠仁は元気に生き返っていた。
「生きてんじゃねえか」
「生き返ったんだよ。多分、宿儺が縛りを付けて心臓を再生したんだろうね」
「なるほどな」
まあ、甚爾は記憶があるので虎杖が死んでいないことは知っていた訳だが。我ながら白々しいな、と内心思いながらも彼は言葉を続ける。
「で。虎杖が生き返ったって事、俺に言っても良かったのかよ。あいつが上の奴らから狙われねえ様に秘匿すんだろ?」
「いや、だってさ。おっさんが一番上と繋がるわけないじゃん」
なにせ術式や血統主義の呪術界の在り方に、存在からして真っ向から対抗しているのが伏黒甚爾である。なんなら甚爾も虎杖と同じく、排除される側の人間だ。
……まあ、本人がゴリラなので実力行使ですら排除できていないのだが。
「後はおっさんだったら悠仁の相手に丁度いいし。素のパワーがおっさんに近い悠仁だし、おっさんが教えたほうが絶対伸びる」
「なら、呪力の扱いはどうすんだ?」
「それは学長のぬいぐるみと俺で。ほら、アイツ。覚えてる?」
アイツ、と言って五条が指をさした先には、ふてぶてしい顔付きのぬいぐるみ“ツカモト”がいた。一定の呪力を流し続けなければ起きて襲い掛かってくるというその呪骸は、かつて七海や灰原も苦しめられていた代物である。
尚、天才の五条と夏油は一切殴られることがなかった為、それを鼻にかけて後輩を煽りまくっていたとかなんだとか。そういうことするから七海に信頼されねえんだよ、と甚爾は思っていた。
「呪力は俺、体術はおっさんとそれぞれマンツーマンとかさ、世界で一番贅沢じゃない?」
なんていったって双方共に最高峰。これで強くならない筈がない。
「えっ、先生たちが教えてくれんの?!」
「そうだよ〜。悠仁には強くなってもらわないといけないからさ」
五条と甚爾の話が聞こえたらしい虎杖が、目を輝かせて二人に近寄ってきた。特級呪霊に手も足も出ず、両面宿儺に交代せざるを得なかった今の虎杖は、強くなる事に非常に貪欲だ。
だからこそ最強を自認している五条と、その人が認めている甚爾に教えを請える事が相当嬉しいらしい。あと単純に人懐っこいというのもあった。
「結構スパルタでいくから、頑張って着いてきてよ」
「押忍!頑張ります!!」
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