幕間 伏黒津美紀
どんな時でも私だけは普段通りに、普通に過ごそうと決めたのは、随分前のこと。小さな頃は私の見えないものと戦うパパを心配して、忙しそうにしている悟くん達に何かしてあげられることはないかと思い悩んで。だけどすぐに、私に出来る事なんてほんの些細な事しかない、と気付かされた。
……だって私は術師じゃないもの。私は彼らに守ってもらう事しか出来なくて、彼らに何かを出来る存在じゃないから。その事が受け入れ難くて、何かをしなくちゃってずっとずっと考えていた。
例えば、硝子ちゃんのお手伝いが出来るように医学部を目指そう、だとか。例えば、身体が資本の彼らの為に栄養学を勉強しようとしてみたり。私じゃない誰かでも出来る事でいいから、彼らの為に何かしたかった。
けれどそうやって勉強するよりも、バランスのいいご飯を作るよりも、家に帰ってきた彼らに「おかえりなさい」と「おつかれさま」を言った時。その時が一番、彼らは嬉しそうな顔をした。
パパ曰く。彼らにとって、何も知らない私が普通の事をしているから安心できるのだそう。彼らが呪霊を倒しているから、私は何も知らずに生きている。つまり私の平穏こそが、彼らの頑張りの目に見える成果。それを聞いた時、私は彼らの役に立ちたいという気持ちを押し込めて、普通に過ごす事に決めたのだ。
だから、今日の様な日だって私は普段通りに過ごす。時折役に立ちたいって気持ちが顔を出すけれど、そこはグッと我慢。パパが夜中に高専に呼び出されていても、恵や美々ちゃんと菜々ちゃんがそわそわと家の周囲の様子を伺っていても。パパや雄くんたちから心配の電話が掛かってきても、私はいつも通りに過ごすのだ。
……でも、それはそれとして。
「うーん、どうしよっかなあ……」
今日はクリスマスイブ。パパも、真希ちゃんたち高専の一年生グループも、本来だったら一緒にクリスマスパーティをする予定だった。でもみんな忙しそうで、そもそも家に帰ってこれるかどうかさえ定かじゃない。
……恵や美々ちゃんと菜々ちゃんは家にいるから、少しは豪華なお料理にした方がいいかな。それとも別の日にパーティをやり直した方がいいかな。材料は昨日買っちゃったし、どうしよう。
「津美紀、何かあったのか?」
「今日のパーティどうしようかなって思って。パパたちはいないけど、恵たちはいるから」
私の言葉に会得がいったのか、恵は肯首した後にうーんと唸る。折角のクリスマスイブだから、やっぱりパーティはしたい。だけどパパたちがいないのは寂しいし。
「二回すればいいんじゃないか。今日と、あとは五条さんが日本に帰ってきてからとか」
「あー、そっか、そうしよう! 悟くんずっと寂しがってたし、いっぱいできた方が楽しいもんね」
それに、もしかしたら夜遅くになったとしても、パパたちが帰ってくるかもしれない。その時におかえり、おつかれさまって言って。おいしいご飯があるよって言ったら、みんな喜んでくれるかも。
そうと決まればお料理を作らないと。ビーフシチューだとか、パスタとか、いつもより豪華で、手の込んだものをたくさん。きっと気持ちを込めて作れば、いつも以上に美味しくなるだろう。
「津美紀姉、私手伝うね」
「美々子も一緒にする。恵はちょっと向こうで待っててよ」
「断る。俺も手伝うからな」
「えへへ、みんなありがとう」
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