幕間 禪院直哉
つまらん。いや、ちゃうな……納得できん、ってのが正解や。ふざけんなやあのクソガキ、甚爾君に目ェ付けよって。甚爾君もアイツやのうて、俺を鍛えろや。
「は? なんだおまえ、それを言いたいが為に東京に来たのか?」
「せやで。あかんか」
俺があの日見た抜き身の刀みたいな雰囲気は鳴りを顰め、甚爾君は見かけ上は普通の人間になっとった。せやけど、その強さが鈍った訳やない。多分甚爾君は爪の隠し方を覚えたんやと思う。ああいうギラギラしとる甚爾君もかっこよかったけど、普通の人間のフリしてる甚爾君もカッコいいから好きや。能ある鷹は爪を隠す、て感じがするし。
でも、あれはあかんやろ。なんで甚爾君はあのクソガキを鍛えとんねん。そこは俺を鍛えるとこやろうが。
「ボンクラ共と違て、甚爾君の凄いとこ分かってたんは俺が先やんか」
「……おまえ、さも自分は違うって面してるけど、俺の強さが好きってだけで他は禪院家のアホ共と本質的に変わりはねえだろ」
俺の言葉に対して、少しだけ呆れた顔で甚爾君が答える。あのボンクラ共と一緒にすんなや、とは声に出せんかった。俺より観察眼がある甚爾君がそう言うんやったら、自覚はあらへんけど多分俺はボンクラ共と似とるんやろう。
……ほんまは甚爾君の言う事に納得なんて出来とらんけど。俺はあいつらと違って、甚爾君の方へ行こうとずっと努力しとる。家の格と術式に胡座掻いてるあいつらと、俺は違うんや。俺はちゃんと俺が未熟やって知っとるし。甚爾君と、あと悟君と自分は違うって自覚しとる。
「納得できねえって面だな」
「……別にそんな顔しとらんよ」
「バレバレだっての。おまえの価値基準は強さだってんなら、他の禪院の奴らの価値基準は呪力と術式だ。そういうもんを基準にしてるんだから、おまえはあいつらとそう変わりはねえよ」
甚爾君が言うてる意味がいまいちよう分からんかった。強さと、呪力とか術式って全然ちゃうやん。基準にしてるもんが違うんやし、俺とボンクラ共も違うんやないの。
──せやけど、甚爾君が言うてることがよーわからん、ってのが多分答えなんやろな。甚爾君を理解できんあいつらとおんなじ様に、俺も甚爾君の言うてる意味分からんかったし、やっぱり俺とあいつらは似てるんやろか。認めんのはめっちゃ業腹やけど。
「強いか強くないか。呪力が有るか無いか。人間、そんな単純に分類できるもんじゃねえよ。性別も持ってる才能も人によってバラバラなんだから、ちゃんと一人一人を見て判断する必要がある。その所、強さだの呪力だので人間を分類して見下してるお前らは全員同じ穴の狢だっつー訳」
まあ、今度は言うてる意味は分かった。分かったけど、納得できるかと言われると話は別や。だって、弱いやつは役に立たんやん。呪術師って仕事しとるのに弱いとか意味ないし、強ないと無駄死にするだけやしな。すぐ死ぬ人間を見下して何が悪いねん、て思うわ。
でもまあ甚爾君の言うことやし、一応気をつける様にはしとこか。弱い奴の為に頭使うん勿体無いけど。
「なんでそんな呆れた顔しとんの」
「いや、多分おまえ分かってねえだろうなと思って」
「今度から強さ以外の価値で判断する様に気ぃつけたらええんやろ。てか、甚爾君が言うてた理論でいくと、俺を総合的に見て判断した結果鍛えへんって事なん? なんで?」
めちゃくちゃ気に食わんけど、逆に言うたらあのクソガキには鍛える価値がある、て甚爾君は判断したってことやろ。めっちゃむかつくけど。……一回どついたろかあのクソガキ。
「いや、おまえが直毘人の息子だからだけど」
「なんでやねん!そこは俺の性格とか見ろや。見たところでどうせ甚爾君やったら、性格悪いし嫌やって言うやろけど」
「まあ、おまえ性格悪いから、津美紀達の教育に悪影響だし家に入れたかねえよ」
「なんでほんまに言うねんアホ!」
もうちょいオブラートに包むとか、そういう事せんのかい。
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