幕間 夏油傑

 伏黒先生の車の中には煙草が置いてある。缶入りのピースだ。
 それを見て思い出すのは、喫煙所で煙草を吸っていた先生の姿。硝子も硝子で煙草を吸っている姿は様になっているけれど、先生のその姿はそういうレベルじゃなかった。ただ普通に突っ立って煙草を咥えてるだけなのに、同性である私ですらドキリとしてしまう程色気がある。馬鹿みたいにカッコいいのだ。
 正直に言って滅茶苦茶悔しかった。私があの人の隣で煙草を吸えば、ガキの癖に背伸びして煙草を吸っているヤンキーにしか見えないだろう。……間違いではないが、それはそれとして悔しかった。
 それに、今回の遠出も何から何まで先生が用意してくれて、急なことだからと両親の新幹線のチケットまで用意してくれたそうだし。……あの人は、私の悩みを見抜いた上で何も言わず、聞かずにこれだけの事をしてくれたのだ。何も聞いてこないから少しの間嫌な事を忘れて食事を楽しめたし、両親を呼んでくれたから自分の内にあった迷いを吐き出せた、初心を思い出せた。
 いっそ、やり口がスマート過ぎて腹が立つ。なんなんだろう、この人は。
 強くて、家族思いで、イケメンで。生徒と言っても他人の私にも良くしてくれる。なのに程よくクズだからむず痒くない。
 ムカつくぐらいかっこいい大人だ。心底この人みたいになりたいと思ってしまう程、伏黒先生はかっこいい。あの人みたいに煙草の似合う大人になりたくなってしまった。
 本当に、滅茶苦茶悔しいけれど。



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