(現パロ)(140文字で書いたものと同一設定)(五条鶴丸、長船光忠、長谷部国重表記)


社内忘年会の開催予定を知らせる話が朝のミーティングで私たちに飛び込んできた。部署内だったらどれだけよかっただろうか、なんてため息をついた。

部署内ではなく社内という規模なので(会社自体そんなに大きくないけれど)各部署2人の幹事を出さなければならない。名字さん去年もうちの幹事だったよね?という課長による余計な一言がなければきっとこんなことにはならなかった。新入社員ちゃんにもなれてもらおうか!なんてほんと余計なお世話だよ課長。ほら、嫌な顔してんじゃないの。

昼休み返上で仕事を始末しながらパソコンに飛び込んできた飲み会の打ち合わせを知らせる迷惑メールに軽く舌打ちをひとつ。箸持ってお弁当開く時間すらもったいなく感じてしまい、パサついた栄養補助食品を機械的に口の中に放り込みお茶で流し込む。くそ、今日帰ったらためてた録画見ようと思ってたのにささやかな私のこれからの予定が総崩れじゃないか、とイライラしていたら営業のホープが伝票携えて私の元に来た。時計見ろ、昼休みだっつってんだろ。

「伝票頼むぜ」
「時計見て〜!今昼休みなの〜!みんな昼休みなの〜!休んで五条く〜ん!」
「そんな冷たいこと言うなよ〜」
「言わせてるのは誰だよ」
「俺だな!」

あっけらかんとして昼休みで人がまばらなフロアで笑う五条。こいつはいつもそうだ。伝票を持ってきたのも自販機に寄るついでだというのだから救えない。自分で何度かしたことがあるけれどもこういう時は棚に上げてナンボだ。

「そういえば名字、経理課幹事らしいな」
「え、なんで知ってんの」
「俺も営業課の幹事だから」

隣が席を外していたため、椅子を引っ張ってきて座り缶コーヒーのプルタブを引きながらそう告げた。フワッと苦味と酸味を連想させる香りが周囲に広がる。あ〜いいな〜。この処理だけ終わったら私もコーヒー買おう。

「五条がいるなら安心だね」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないか!ちなみに人事から長谷部、総務から光忠が抜擢されたらしい」
「だったら私いらなくない?」
「そんなことないさ」

昼休みを作業しながら五条との会話で消費して、残り4時間の勤務時間。その後5時から大会議室借りて打ち合わせ。幹事と言っても高校の文化祭の実行委員会のようなもので、上から言われたことをもれなく朝のミーティングなどで社員に間違いなく伝え、質問があったら受け答えをする。部署内の出欠確認なども感じの仕事だ。家庭がある人も多いところなので忘年会は全員強制参加ではないが、幹事はもれなく強制参加。インフルエンザ来い、その日だけ来い、なんてくだらないことを考えながら手は動かして、仕事が粗方片付いたところで時計を見たら4時50分。やばい、あと10分で打ち合わせ始まるじゃん。何で声掛けてくれなかったの新入社員ちゃん、と思いそちらを見ると、チラチラこちらの様子を伺っている。こっちが動くの待ちかよ、私そこまで優しくねぇぞ。

とりあえず急がなければと新入社員ちゃんに声をかけ、課長にも行ってきますをして、エレベーターに乗り込む。

「あれ名字ちゃん」
「あら長船、打ち合わせ?」
「うん、そっちもでしょ?」
「なんで知ってんの?五条?」
「そうだよ!鶴さんから聞いたんだ」

乗り込んだエレベーターには総務の長船。同期なので研修の時に仲良くなり、サシ飲みをする仲だ。イケメンやら美女やらは三日で飽きるなんていうけれど、長船の顔に飽きはこないよなぁなんて達観してしまう。ほら、新入社員ちゃんだってイケメンに見とれてるしね。

他愛もない話をしているうちに大会議室につく。プロジェクターの前には五条。こちらに気づいたのか手を振ってきたので軽く振り返す。ガキか。
経理課と書いてある札の前に二人で腰をかけ、少し待つと五条のあいさつから部屋の照明が消され画面に注目が集まる。どうせ画面の内容は席に用意されているステープラーで留められた資料の中に全て収まっている。

たかだか15分程度で終わるだろうと踏んでいたのだけれど、この後各課幹事の片割れ1人ずつ出して飲み会に行こうぜ!なんてわけのわからないことを言い出す輩にみんながノり始める。流石にこれを後輩に押し付けるわけにもいかないだろうと、ここはぐっとこらえて「大丈夫、私が行くから!」と笑顔で返す。後輩のありがとうございます、すいませんの裏に隠された「当たり前だろババア」は見なかったことにしよう。

フロアに戻り課長に事を話してさっさとコートを持ち上げ切り上げる。溜めてた録画を見る日は遠のいてしまった。別に番組に大した思い入れもないけれど何故かとても悲しい。

一件目の居酒屋でさっさと帰ろう。絶対に帰ってやる、なんて顔をして飲み会勢と合流をする。顔にその感情が出ていたのか知らないけれど憐れみの顔で長船に肩を叩かれた。同情するなら帰らせて。

「お!きたな名字」
「そりゃ来るよ…」
「名字ちゃんすごい嫌そうな顔でエレベーターから降りてきたんだよ?」
「何か用事でもあったのか?」
「先週の金ロを一人でちみちみ飲みながら見るつもりだった」
「ハッ」
「笑うな長谷部」
「いや、寂しいやつだなと思って」
「まって、それを長谷部に言われたくない」

なんて話しながら一件目についた。仲良し同期(笑)は4人で固まって飲むが他部署の女性社員がイケメン3人に寄ってくる。私から見てもこの3人の見た目は極上だと思う。とりあえずで大生ジョッキを注文し、みんなとの乾杯のあとに仲良し4人で半イッキする。アルコールが体に染みるのがとても良くわかる。届いてくるおつまみに手を伸ばし、足りなくなりそうだなと思えば長船が気を利かせて注文してくれる。ほんといい奥さんになるよね、なんて冗談で言ったら、名字ちゃんは僕を見習うべきじゃない?なんて返答がきた。デリカシーないこと言う長船も、ビール吹き出しそうになった長谷部にもなんだか腹が立ったので、目の前に座る2人には私からの華麗な蹴りが炸裂した。

そろそろ飲み放題の時間終わるから〜という言葉に待ってました!と言わんばかりに財布を出して指定された金額をきっちり出す。俺たち二件目行くけどどうする?なんて声に私は行かないと返事をする。席を立った時少しふらついたので結構酔っているのかもしれないな、と思い店を出ると後ろから肩を掴まれる。

「おい」
「なんだい五条」
「お前さん、一人で帰るのか?」
「うん、ここから近いしそのつもり」
「……送る」

えっ、なんて間抜けな声が出た。そんなことされたことないし、されたことがあるとしても酔っていない女の子だ。いいよ悪いよなんて言っても話を聞かず、腕を掴んで離さない。挙句どっちだ、なんて聞いてくる。方向を指さして、あっち、と言うとそうか、と言って無言でざくざく歩いていく。

わけも分からずに腕を引かれたま無言で街灯の下を歩く。コイツこんなに静かだったっけ、なんて思いながら言葉には出せなかった。半歩前を歩く、ベージュのトレンチコートに包まれた背中は意外と大きかった。みんながいると話せるのに、いざふたりきりになってしまうと何も話せない。

「五条、腕」

それだけいうと立ち止まり腕を離してくれた。夜10時、いい年した2人の間に静寂が走る。言いたいことは沢山ある。なんで二件目に行かないで送ってくれるの、なんで無言で腕引っ張ったの、他に女の子いっぱいいたのになんで私だったの。でも声に出せない。

言葉にはならない思いがきっと五条には伝わったんだと思う。一度大きく目を見開いて下を向いた。

「なんで何も言わないの」
「なんでって」
「…うち、もうすぐそこだから」
「あぁ、ここまででいいってことか」
「違う」
「じゃあ何だ」
「私に何も言わないで家に帰らせていいの」

白い息が五条の姿を遮る。少し高い五条の顔をじっとみつめる。確信はないのに私を好きだろ、みたいなことを言ってしまったのは恥ずかしいことだと気づいた時にはもう遅かった。

目の前で顔を真っ赤にして口を開け閉めさせながら、な、だの、ば、だのを発する。え、嘘でしょ。

「いつから気づいてたんだ」
「ごめん、今の表情でわかった」
「まったく君ってやつは……」

大きくため息をついて頭を掻く。ふぅ、と息を吐いて真っ赤な顔の真剣な眼差しでこちらを見る。

「名前」
「は、はい」
「好きだ。俺と付き合ってくれ」

私の顔が染まったのは寒さのせいか、この心臓の高鳴りのせいか。

(実は営業課幹事になったのも、わざわざ昼休みに伝票を持ってきたのも、幹事一人代表の飲み会を組んだのも、全部お前と話す機会が欲しかったからだったなんて!)



   




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