※現パロ
※長船光忠表記
※光忠がゲスい
※前編

何度目の喧嘩だったか、もう思い出せなくなった。
原因は全部、光忠の浮気だった。
最初のうちは許してた、俺の元に帰ってきてくれるならそれでいいと思っていた。
でもそれも無くなった。

高校で付き合い始めて、同じ大学に進学して、なあなあで半同棲状態になった。基本は光忠が俺の家に入り浸ってた。今俺があいつの家に行ったら、きっと知らない女と白濁の液体が注がれた避妊具が転がってるのだろう。
呆れた、というかもう関係を続けていける自信なんかまずなかった。
いいタイミングじゃないか?女と浮気してるところを現行犯でとっ捕まえて俺から振る。ついでに光忠の家に置いてある俺の荷物を取ってくる、合鍵も置いていく、返してもらう。これで数年間の全てがチャラになる。そう思って俺は家をでた。
徒歩10分ほどの近さにあるあいつのアパートについてエレベーターに乗り込み、階数のボタンを押す。せっかくの休みなのに俺ってば何やってるんんだろうな、なんて考えていると目的の階数についたことを知らせる音が鳴った。
戦争の始まりの合図だ。

エレベーターを降りてすぐ、長船と書かれた扉の前に立ち、鍵穴に合う鍵を差し込み静かに音を立てないように手首をゆっくり返す。
割りかし新しい建物のため、扉はきしまない。

入ってすぐにわかった。嗅覚と聴覚で全てが伝わってきた。
あの独特の青臭い匂い。二人の吐息、声。片方が光忠であるということはすぐにわかった。
呆れた、諦め、絶望。数えるのも億劫なたくさんの感情が混ざり、結局俺に残ったのは、無、そのものだった。

「おじゃまします」

なんの思いも込められてない表面上の言葉を知らない女とそれはそれは良く知った男に向けて言った。
なんだこいつら、リビングでヤってたのか。
驚いたとに恥らうような顔をする女と、何を考えているのかわからない男。

「ほんっとに、お邪魔だね」
「悪いな光忠、別れよう」
「は?なに急に」
「別れよう」

今日俺がここに来た理由を簡潔に光忠に話しながら、持ってきていたエコバックに荷物を詰めていく。だいたい詰め終わったか、ぐらいの時に女と光忠が言い争う声が少しだけ聞こえてきたけどもう関係ない。

「合鍵、ここ置いとくからな」

ソファーでまぐわっていながら喧嘩じみたことをする二人に目もくれず、ソファーの前にあるローテーブルに合鍵をおいた。光忠のカバンを漁り、キーケースから俺の部屋の鍵を抜き取り、荷物を持ち玄関に向かう。さすがに焦ったのか分からないがナカからご自慢の一物を抜き下着を履こうとしていた光忠が滑稽で、少しだけ、ざまぁみろ、と思った。

「じゃあな!!」

満面の笑みで光忠と光忠の部屋に告げる。復縁は絶対にしない。きっと光忠は俺を追ってはこない。

「名前」

光忠が何かを言いかけたのを確認した瞬間に、無情にも扉が静かにしまった。
俺たちはそれであっけなく終わった。
パンイチで出てこれるわけもなく、でも追ってきて欲しくはないのでエレベーターを使わずに階段で駆け下り、その日は友人の家に泊まった。

翌日は通常講義があった。奴と学部は同じではないため、基本的にかぶる授業は殆どない。壁際の席を取ればその横に昨日泊まらせてもらった友人が席を陣取り、俺の後ろ、斜め後ろもいつものメンバーが揃った。さながら包囲網のようだ。

「彼氏と別れたんだって?」
「えっ、長船と?」
「あいつめっちゃ女と浮気してんじゃなかったの」
「だから別れた」

昨日あったことを話していたら、教授が入室してきた。一時中断、昼休憩の時にでも教えてやろう、なんて思っていたらグループトークで何があった?など聞いてくる男ども。待てができない奴らだな、と苦笑を漏らしつつ授業に支障がない程度でラインを返していく。
前の女子からレジュメを貰う際に「アンタ、長船くんと別れたんだって?」と頗る不快そうな顔で言われた。話が回るの早いなと自分のことじゃないように思った。薄っぺらい紙を受け取りながらだから?と真顔で返す。彼女は話を続けた。

「あんま言いたくないんだけど、私の友達なんだよ、長船くんの浮気相手」
「うん」
「あの後、相当長船くんが荒れたらしくて」
「うん」
「なんて言ったらいいか、分かんないけどさぁ…」

「今まで甘やかしてた名前にも責任はあったんじゃん…?」

「え、俺?」

あまりにも急に他人から押し付けられた謎の責任。俺に責任?そんなのあってたまるかよ。俺は一番の被害者じゃねぇの?

「や、9割この件に関してはアイツと長船くんが悪い。それは言い切るけどさ。」
「いいよ、教授にバレない程度に喋って」

なんだか腑に落ちないな、と頭をかく。カモフラのために前回のレジュメを出した彼女にボールペンで指しながら、教えてやってますよ感を出す。こうすれば何も言わない教授だとわかっていた。

「浮気してたの、名前は知ってたんでしょ?」
「あそこがデキて2日で分かった」
「でも、それに突っ込むこともしなかったでしょ?」
「最初はそれで喧嘩してたよ。最近は喧嘩するのめんどくさかったからしてなかったけど」
「そこじゃん?」

彼女曰く光忠は俺に甘えていたのだという。俺に浮気を咎められることでしか愛されていると思えなかったんだという。何度も何度も許してくれた俺なら許してくれるという絶対ではない確信を持っていたのだという。それを持たせてしまったのは言わずもがな俺のせいで。その確信を急にぶち壊した俺にも責任はあるという。しばらく放置して戻ってくるならまぁいいか、と思っていた俺にも責任はあるという。
ちらりと隣の席の包囲網の1人を見ると、めちゃめちゃうなずいていた。左も、右も、後ろも。チャットを見る。

「そこはお前が悪い」

お前ら俺の味方じゃねぇのかよ。
90分の退屈な授業は、四方向全部塞がれた要塞で甘やかしたお前が悪いという集中砲火で終わった。
終了10分前にすべて片付けていた俺達はチャイムが鳴り、これで終わりという教授の宣言と共に立ちが上がる。前に座ってた彼女に「早めに仲直りしてくれないと困るんだけど」と大声で怒鳴られた。俺と光忠の問題になんでお前が困る必要があるんだよ。そう思ったが、きっとこれを彼女に言ったら何かが終わる気がした。是とも非とも捉えさせぬような返事をして講義室を離れてカフェテラスに向かった。途中、光忠の浮気相手とすれ違った。今日も小綺麗にしてるな、なんて平凡な感想しか抱かなかった。浮気相手に対する怒りは皆無だった。光忠に対する怒りも皆無だった。

カフェテラスに行き小洒落たランチを胃の中に収め、食後のアイスコーヒーを飲みながら4人でタブレットを開いて真ん中に置き、今度のプレゼン大会でやる題材を探してみたり、レポートの文献探してみたり。
ふと、ひとりが俺に話を振る。

「さっきの話」
「あ?」
「長船の話」
「あぁ…だいぶ講義中で片付いたつもりしてたけどそんなことなかった?」
「なかった」

結局半同棲はやめたのか?─合鍵返して返してもらった
ヨリ戻す気とかない?─ない
怒ってんの?─いや全然。モテる男は大変だなぁって思ってる


もう好きじゃないの?


「それは、分かんない」


甘めにしたアイスコーヒーの中の氷がカランと音を立てた。その音が無性にあたりに響いた気がした。俺は光忠が好きなのか?嫌いなのか?そもそも最初からなんとも思っていなかったのか?疑問を追及しようとすればするほど心が入ってくるなと意思を拒絶する。
俺と光忠の関係は生産的ではない。そんな事付き合った時からわかっていた。親にも言えない。今でこそ若い奴らには受け入れられつつあるけど、こういう関係を嫌う人だってきっとこの世に数え切れない程いて。じゃあなんでデメリットしかない関係を好きか嫌いか分からない男と続けていたんだ?暇つぶし?恋人という存在だけが欲しかった?光忠をアクセサリーにして闊歩してる自分が好きだった?

悪い方向に進んだ思考はマイナスに行くことしかできなくて、急に頭を抱えて黙り始めた俺に大丈夫か?なんて声をかけてくれる友人に返事すらできなかった。
零れる涙を止める術を、今の俺は忘れていた。
木で作られた席にぱたぱたとシミを作っていく。涙ってどうやって止めてたっけ。最後に泣いたのいつだっけ。


最後に泣いたの、光忠の最初の浮気じゃなかったっけ。


笑いが込み上げてきた。置いてけぼりな友人三人を放置して、俺はひとりで小さく笑った。
結局俺、最後まで光忠に泣かされる運命だったのかな。
こうして泣くことでひとつ、気づいたことがある。

俺は確かに光忠が好きだった。
でもきっと光忠は、そうじゃなかった。



(つづくよ!)


   




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