長いと思っていた夏が終わった

長く燻っていたはずの俺たちの灯火は軽く息を吹き消す真似事をしただけでいとも簡単に消えてしまった
事務的な連絡事項を顧問が話す
聞こえている、聞いたものを留めておく余裕もある
それを自分の中で反芻することしか今の自分にはできなかった
撤収作業も手伝うことができず座ったまま
声をかけられても自ら何かアクションを起こす、そんなこと出来なかった

返事すら、したくなかった


「名前ちゃん」


「靖友‥‥」


だって声を出した瞬間に緊張の糸が切れて泣いてしまうから
この時を待っていたかのように溢れ始める涙を拭わずに靖友を見つめ続ける
長い溜息とともに頭を乱雑にかいてから俺の腕をとって立ち上がらせた
瞬間胸に顔を押し付けられた


「最初からそうしてくんねぇと困んだよ」
「泣けなかった、泣いちゃいけないと思ってた」
「なんでェ」
「俺、選手じゃないし、俺より選手の方が、絶対悔しいし、」
「今まで俺らサポートし続けたんだ、お前選手じゃなくても仲間だろォが」


バカチャン


その言葉が悔しくて嬉しくてどうしようもなくなって、結果がどうであれ箱根学園であることにまず感謝をしなければならないのだろう
靖友の胸を借りたままで二人して黙っていると寿一が声をかけてきた


「ようやく泣いたのか」
「おかげさまで」
「そうか、もうじきにバスが出る。荒北、救護室にボトルが2本あったとスタッフが言っていた。帰る前に一度寄って取って来い」
「アー‥‥了解」


そうして箱学テントから靖友が姿を消した


「寿一は泣かないの」
「俺は強い、来年のあいつらの勝利を信じている」
「でも、負けたのは悔しいだろ」


上から寿一が俺に目線を向けた、目は微動だにしていないふりをして瞳の奥が揺れているのを俺は見逃さなかった
泣けばいいのにどうしてこんな強がりをするのだろうか
昨年の雪辱も王者としてもプレッシャーも部長としての責任もエースとしての期待も、何もかもを背負って走ったのは、走りきれたのは寿一しか居なかったと言うのに


「俺は、泣いてもいいのだろうか」「俺が泣いて、お前が泣かないとおかしいんだよ」


首に手を回して肩に頭を乗せてやると、背中に腕が回って抱きしめられた
寿一の体は震えていて、みんなの前で堂々としていた鉄仮面の姿はどこにもなかった
肩が濡れて落ち着いた頃に、耳元ですまないと言ってきた寿一に、構わないと言葉にせずとも伝わるように背中をぽんぽんと叩いてやった



長いと思っていた夏が終わった

炭酸飲料のガスのように、各々の夏がパチパチと弾けた
この時が続けばいいのにと何度願ったことだろう
我がチームの勝利を願わない夜は無かった

蝉の声がうるさいこの箱根の山が連なる場所で
俺たちは王者からチャレンジャーに引き摺り落とされた





   




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