(主は三島由紀夫)




「人を殺すとは、如何なる心持ちだ」
「さぁ…考えたこともねぇな」

片方は煙草を肺に収めながら
片方は小さなグラスに入った酒をくゆらせながら
女嫌いで有名な三島は、ポートマフィアに属しながらも戦闘要員ではなかった
それに比べ太宰の元相棒の中原は根っからの戦闘要員で三島とは対極にあった

二人きりの部屋
目の前のガラス越しには横浜の光が目映いくらいに輝いていた
三島は椅子から立ち上がり腕に煙草を押し付ける、これは三島の癖と言うものであった
中原は痛くないのかと三島に問いかけたことが一度だけあった
痛いに決まっているだろうと口元に苦笑らしきものを浮かべた
一ヶ所に的確に押し付ける、彼の几帳面さを象徴しているようだった
其処はすでに爛れて、見る者を間違いなく不快にするであろう


「中原、お前、俺が死ねば如何する」
「さぁな、その時にならなければ分からない」
「…では、太宰と俺であったら?」


反射的に煙草を押しつけたままの三島を見る
逆光で表情はよく窺えなかった

おい、真逆、死ぬ積もりじゃねえだろうな、何とか言えよ、おい

中原の声は段々と震え、感情と共に荒くなっていった
胸倉をつかめば短くなった煙草は音も立てずに床へ落ちる
その時の三島の切なげな笑顔は酷く美しかったが二度と観たいなどとは思えなかった、一生見たくはないと腸が怒鳴る


「俺が、死んだら、如何する」
「………」
「俺と、太宰が、共に死ねば、心中をすれば、貴様は如何なる」


目の前で幼子に語りかける口調で中原に問う三島は近くにあったソファーに中原を突き飛ばす
覆い被さる


「大丈夫だ、俺が死ぬことはない」
「……」


だが、と話を切り出す


「俺が死ぬときは、お前が殺してくれ」


あァ、分かった






   




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