まだ吸ってんのかよ、と声をかける
当たり前だろう、笑って返す
俺はここに煙草吸いにきてんだから、肩を揺らす
そうかよ、そっぽを向く


無言が続く中、俺は呑気に煙を吐く
十二神将の鏡の飼育員、と呼ばれる俺に心を開いた様子はない
俺より同期の大友の方がこいつを扱えるだろう、と何度考えたことか
外の空気に煙と共に考えが溶け出す

フェンスの軋む音など耳に入らない振りをする
重い扉の軋む音など聞き流す振りをする
東京の汚れた空気の流れを詠む振りをする
都会の造られた光の数々に目を細める振りをする
そうすれば俺は一人の世界に連れて行かれるはずだった
昔はそうだった、のに
今は一人の世界とは乖離されたままだというのに
違和感がひとつもない事に苛立ちを隠せないでいた


まだ吸い終わんねぇのか、呟く
あぁあと半分はあるな、煙を吐く
暇だな、嘆く
どうした、驚く
お前らしくないな、笑う


ころころころころ
繰る呉る来る暮る
表情が変わる俺を横目で見る鏡は何かを言いたくても言えない、言いたいのに口がそれを拒む
もどかしいような気に捕らわれていた
分かっていても救いの手など差し伸べてはやらない
それが飼育員としての、俺の役割
それが俺としての、存在意義で存在価値で存在理由

最後の一口かな、と煙草の灰を携帯灰皿に押しやって短くなったそれを再び口にすると隣から聞こえる舌打ち
笑うのを堪えながら肺まで煙で満たせば胸に広がる期待と歓喜と恍惚
ふう、と穢れたいと喚く空気に吹き込んでやれば俺に残ったのは満足感と焦燥感
対立に有るそれを同時に胸に寄せれば痛いくらいに肩を掴まれた


塞がる呼吸器
触れ合う唇


音を出しながら名残惜しそうに離れればレンズ越しに睨む愛しい人



「おかえり、怜路」





   




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