「なんで」
「…喧嘩で」

「どうして」
「…絡まれたから」

「どこで」
「鮫川河川敷…」


頬の傷を保健室で手当てする物好きな男の先輩からの質問責めを受ける
答えなくても良い質問であっても、何故か応えなければならないのではないか、という圧力があった
どうしてだろうと考えたって、幼い頃から人と接するのを拒否し続けた俺には、対人関係や情緒に関する知識も経験も周りより少なかった


「…喧嘩するのは、構わないが」
「はぁ?」
「喧嘩するのは構わないが、あまり傷を付けるな」
「……」
「そんな顔は、見たくはないだろう」


湿布や絆創膏が張り付けられた俺の顔を指先で慈しむように撫でるもんだから、心臓が可笑しくなった
不整脈?いやそんなはずはない


「お前、巽だろう」
「…」
「巽んちって染め物やってるだろ」


きた、と俺は反射的に身構えた
丸い椅子に座る目の前の男は至って真顔の侭であった
無性に口が震えて何も言えなかった
反抗するなら出来たはずだった、できなかった、いや、しなかった


「俺、華道やっててさぁ、たまに作って貰うんだよねぇ」
「はっ?」
「だから間接的ではあっても巽と関係はあった、ってことだろう?」
「お、まえは…」
「ん?」

「お前は、俺のこと…変って、言わねぇのかよ!!」

椅子から興奮して立ち上がった俺をきょとんとした表情で見上げる
えっ?と間抜けな声が上がり、へらっと表情が柔らかく崩れた


「どこが?不良だって客観的に見てだろ?俺、お前みたいなの良いと思うよ」


保健室で、男の先輩に抱いた感情は、紛れもなく普通じゃなかった




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