どこから間違えたのだろうか
同じ高校の教諭だった奴とは親しくなどしていなかったし、寧ろ、俺は苦手意識を少なからず、いや、大いに持っていた


率直に言おう
俺は槙島聖護が嫌いだ


「いい加減此処から出せ」
「そんな事したら、君は逃げてしまうだろう」
「…判った、どこにも逃げはしない」


だからせめて家の中だけで善い、行動範囲を広げてくれ
脚には壁との間に鎖がある
重たい、非常に不便
此処数日で俺の感性というかプライドとかいうのか無くなっている気がした
だから嫌いな男に頭を下げた、懇願した忠誠を誓った


「寺山修司…?」
「そう、戯曲のさらば、映画よ。知らないかい」
「俺の専門は日本の近代文学だ。お前も読めばいい。夏目漱石のこころ」
「僕が先生なら君がお嬢さんか、Kは?」
「…グソン辺りにしとくか?」
「ふふ、そこは咬噛にしとこうよ」
「あれが頸動脈切って死ぬ質か」
「藤間くんとか?」
「あぁ…いいかもしれないが…"しかし君、恋は罪悪ですよ。分かっていますか"」
「"なぜだかいまにわかります。いまにじゃない、もうわかっているはずです。あなたの心はとっくの昔からすでに恋で動いているじゃありませんか"」


喉を鳴らして笑う嫌いで憎くて忌々しい彼の白い首筋に顔を寄せ、頸動脈に八重歯をあてがうと俺の頸動脈に爪が食い込む
痛いと呟くとお互い様だろう、とまた笑う男が気に食わなくて、こんな男を好いた自分が気に食わなくて、そんな自分の思考と海馬がとてもとても、心地よかった


「"月が綺麗ですね"」
「…"わたし死んでも良い"…?」
「自分風に訳してごらん?」
「……地獄谷でデートしよう」


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