※現パロ 同棲五年目。同棲しようっていうラブラブなノリではなく、お互い同じ時期に更新が来て、更新すれば賃料が値上がりしてしまうからだった。 一緒に借りるか? 賃貸情報誌を片手に長谷部がそう言うから私も家賃、水道光熱費折半なので多少金銭面も楽になるかな、そう思い承諾した。 長谷部とは高校で出会って、隣の席になった時に気が合うなって仲良くなった。成人式で久しぶりに再会して、周囲のノリに押し切られてどちらからともなく付き合った。それが八年前。現在アラサー手前。 実家に帰る度にそろそろ結婚しないの?と言われる始末だ。恋人がいないならまだしも、まぁまぁ長いこと付き合っている彼氏がいるわけで。母親からは長谷部くんと結婚したいって思えない?っと怪訝そうな目を向けられ、まだ実家に住み着いてる弟からはあっちがそう思ってねぇだけだろ、と笑われ、たまたま実家に旦那子供を連れて帰っていた姉からは、そろそろウェディングドレスきつい歳になるよと脅され散々な目にあった。それが30分前。たまの休みに顔を出したらすぐこれだ。 今日は長谷部は半休だったか、と思い出しながら帰り道にあるスーパーに寄って、冷蔵庫の中身を思い出しながら今晩のご飯の材料をカゴに突っ込んでいく。なんだか憂鬱だった。 会計を済ませ、レジ袋にものを適当に詰めて店を出て横断歩道を渡り、少し歩く。アパートのエレベーターは今しがた上へ向かったようだ。上へ行くボタンを押してしばらく待つ。音を立てて到着を知らせるエレベーターの中へ乗り込み、目的の階数の数字を押し、扉を締めた。 結婚を考えないということは無かった。付き合ってすぐに、きっと私はコイツと結婚するんだろうなとも思っていた。タイミングが来たらあっちから声をかけてくれるだろうとすら思っていた。 シンプルなペアリングこそ左手の薬指に据えられているが、結婚してくれ、なんて直接的な言葉でのプロポーズなど受けたこともないし、そもそも長谷部は好きだとか愛してるだとかを言ってくるような性分ではない。でももう八年だよ?そろそろ良くない?と憂鬱な気持ちがそろそろ怒りに切り替わりそうなところで、扉が開いた。 自分の部屋の前で鍵を取り出し、鍵を開け部屋に入る。少し汚れて使い慣れたことがわかる革靴が玄関に揃えてあった。 「長谷部、おかえり」 「お前もな。なんだ、また実家帰ってたのか?」 「うん、姉ちゃんも帰ってきてて楽しかった」 「そうか、良かったな」 ソファに座ったまま、冷蔵庫に買ったものを入れる私に顔を向けて話しかけてくれる。先ほどの結婚の話が未だに頭から抜けなくもやもやした気持ちでいた。ペットボトルのアイスコーヒーをコップに注ぎ、私もソファに座ろうと長谷部がいる方へ向かった。 少しこだわって二人で買ったガラステーブルの上に本屋の印刷がされた分厚い紙袋があった。長谷部の顔を伺うと眉間にシワを寄せ腕を組み、難しそうな顔をしていた。 「なにこれ」 「…開けてみろ」 「?うん、」 何冊か入ってるのかなと思ったその紙袋の中身は一冊のようだった。重たいな、と思いながら少し雑にテープを開ける。 「…おぉ」 「…なんだその反応は」 「いや、びっくりしてさ…え?」 中身は結婚情報誌だった。 「え?長谷部が買ったの?」 「そうだが」 「ちょっと良くわかんないけど、今度長谷部の会社が結婚事業に参入するとかそういうこと?」 「違う」 少し長めのため息を吐きながら、私の目をじっと見つめられる。何かを察した。やばい。ついにこの時が来てしまったけど今の今でタイムリー過ぎないか?実家にいる誰かにけしかけられたか?にしてもあまりにムードないな?長谷部に期待した私が馬鹿だったのか?など少しの時間でいろいろな事柄がぐるぐるしてしまい、最後は真っ白になってしまった。そんなことが私の中で起きているとは知らない長谷部はついにその言葉を口にした。 「俺と結婚してくれないか」 何かを確信したような目をしているくせに、不安げな顔をする長谷部がなんだか愛おしくて仕方なかった。 ドラマのように涙を流したり、綺麗な夜景も、沢山の花束も何も無いけど、これが私達なりの幸せなんだろうな、と心の中をじんわりと暖かいものが支配していった。 「言うの遅すぎじゃない?」 「その分いい指輪を用意したつもりだ」 「勿論幸せにしてくれるんでしょ」 「当たり前だ」 「はは、自信家だなぁ」 「よろしくお願いします」 今は新しくダイヤがあしらわれたエンゲージリングが薬指で輝いている。 |