素足が美しいと王子は言う


「社長〜、おはよーございま……」
 遠慮もなくずかずかと部屋に入り込んだレノの足は三歩踏み込んだ所で宙に浮いた。
 絶妙なバランスで片足立ちをしながら、部屋の中の一点に視線が釘付けになる。
 そのままたっぷり十秒は経ったところで、視線の先にいた人物が眉間に皺を寄せたまま緩慢な動作で起き上がった。
 レノに気付いているだろうに──むしろ彼のせいで目が覚めたのだろう──その人物はレノに一瞥もくれることなく、やはり緩慢な動きでベッドを降りた。
 歩き出そうとして足を止め、そこでようやくレノを見る。
「シャワー……」
 掠れた声で云った言葉に、一瞬レノの頭に「?」が連打されたが、すぐにバスルームの場所を尋ねられているのだと気づいて、指差しつきで答えた。
「あっちだぞ、と……」
「…………」
 礼も云わずに気怠げな歩みでバスルームに消えた背中を、ようやく両足を地に着けたレノは呆然と見送った。
「えーと……どうなんってんだ、と……」
「レノ」
 バスルームのドアを凝視していたレノの耳に鋭い声が飛び込み、反射的に首を巡らせたレノが見たのは、先ほど見送った人物と同等かそれ以上に眉間に皺を寄せた人物だった。
 ベッドの上に裸の上半身を起こし、背筋の凍えるような目でレノを睨みつけていた。
「何度云えば分かる。部屋に入る時はノックをしろ」
「あ……と、スンマセン……ていうかさっきのはクラ──」
「報告があるのだろう。手短に」
「……はい」
 雇い主に報告をしながら、レノはバスルームから聞こえるシャワーの音をぼんやりと聞いていた。
(下のヘアーも金髪だったぞ、と……)
 星の英雄と自分の雇い主が、何故全裸で同じベッドにいたかは考えないようにした。

END
Title by テオ

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