タイトロープ「似てるな」
俺の髪を梳いて、アンタは云った。何が、とか、誰と、とか。聞くのが怖いだなんて、アンタは知っていてやってるのか。
大きな手が優しく髪を梳く。
銀色の髪。俺の髪。アンタと同じ色。それから――
「うん、やっぱ似てるな。俺に」
後から付け加えた言葉が、やけに白々しい。
「顔が? 髪の色が?」
「どっちも」
「似てねえよ。それともアンタ、自分と似たやつとセックスするってのか」
「まあ、俺程のオトコマエとなるとな。ムラッと来てもしょうがないだろ」
「馬鹿、意味分かんねえ、死ね。ナルシストが」
アンタ、最低だよ。
「おーい、坊や、こっち向けよ。……坊や?」
嫉妬とか、そんな感情じゃない。
なあ、ダンテ。
俺はただ、怖いんだ。
「坊や?」
「……うるせえ、俺はもう寝る」
なあ、ダンテ。
俺は誰だ。教えてくれ。
アンタが俺の中に別の誰かを見る度、俺は自分が誰なのか分からなくなって行く。
END