ある日の男たち


 好い男になったものだ、と思った。
 何のことはない、ただいつものように事務所で暇そうに雑誌を読んでいるネロを見た瞬間に、そう思ったのだ。
 昔から小綺麗な面をしていた。
 あの性格さえなければ天使のようだとさえ思っただろう。
 俺も自分がかなりの男前である自覚はあったが、坊やのそれは男前というよりは綺麗に近かった。
 それが今は頗る好い男になった。
 綺麗は綺麗なのだが、十代の頃の青臭さや、迷いや荒々しさがなくなった。
 一言で云えば落ち着いたと云って良い。
 まだ男の貫禄というものはなかったが、不可能など何もないかのようなエネルギーと、それでいて計算高ささえ感じさせる静けさが同居していた。
 小綺麗な顔は丸みが取れてシャープになり、ショウウィンドウのマネキンが裸足で逃げ出すほど美しい。
 多分、十年後にはもっと好い男になっているだろう。
「何さっきからじろじろ見てる、ダンテ?」
 視線に気付いたネロが雑誌から顔を上げて云った。
 声も落ち着いた耳に心地よいテノールだ。
 正直その声に耳元であれこれ卑猥なことを云われるのは堪らない。
 声だけでイキそうだと思ったことが何度あったか。
「いや、好い男になったと思っただけだ」
 衒いもなく云うと、ネロは一瞬目を丸くした後、昔のようにあどけなく唇を綻ばせて笑った。
「アンタはますます可愛くなったよ、ダンテ」

END
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