おわらないと、ずっと


「おかえり」
「……ただいま」
 待ち構えるように玄関で仁王立ちしていた義兄を避けるように、乱暴に靴を脱ぎ捨て、二階に上がろうとした。だけど擦れ違い様に腕を掴まれて叶わない。
「遅かったね」
「ちょっと」
「ちょっと、ね」
 人のいい笑みを浮かべた義兄が、すんと鼻を鳴らして首筋に顔を寄せた。ぞわ、と背筋に走ったのは、悪寒。
 五つ歳の離れたこの義兄が、俺は恐ろしかった。
「香水の匂い、するね」
「っ、いいだろ、別に。俺がどこで何しようと、アンタには関係な――」
 パシッ。
 乾いた音がして、頬を叩かれたのだと知った。
「関係ない、ね。どの口がそんなことを云うのかな」
 有無を云わせない力で、二階に引きずり上げられる。
 二階には、俺の部屋と、義兄の部屋。引っ張り込まれたのは、義兄の部屋だった。
「や、め……っ」
「あんまり大きな声を出すと、義母さんたちが起きるよ」
「…………っ」
 大きな声を出すなと云うくせに、投げ出されたベッドが大きく軋んでも、義兄はその張り付いたような笑みを崩さなかった。
 覆い被さる身体、嗅ぎ慣れてしまった体臭。記憶に刻み込まれた愛撫のひとつひとつ、が。抵抗しようとする力を奪って、縋り付くことしか出来ない。
「義兄さん……こんなの、間違って、るっ」
「何を今更。俺たちが今まで一度でも正しいことをしたとでも?」

“ねえ、政宗”――

 今ではもう誰も呼ばないその名を、
 愛おしげに呼ぶから。

「さ、すけ……っ」




 俺たちはもうずっと、
 想いを引きずったまま変われないでいる。


これは天罰、
なのか 


END
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