「好きだよ、旦那」
 乗り上げるように、押し倒して。
 口付けを交わすように、顔を寄せて。
 それでも竜は無表情のまま、
「そうか」
 とだけ。
「冷たいなあ、旦那。でも、そういう所も好きだよ」
 俺は平気で嘘を吐く。
 だけど、たまには本当のことも云うんだよ。
 それが今かどうかは別として。
 口付けると少しだけ、長い睫毛が震えた。
 お互い全身に汗を掻いているはずなのに、唇は氷のように冷たかった。
 暖めてあげたいのに。
「好き」
「……黙れ」
「好きだよ」
「やめろ、黙れ」
「好きなんだ」
「黙れと云って――」
「……ごめんね」
 忍びなんかに生まれて。
 でも、忍びに生まれなきゃ、アンタに会えなかった。
 きっと、恋もしなかった。
 最初から手に入らないと知っていたから、こんなにも焦がれたんだ。
 馬鹿みたいでしょ。
 でも、馬鹿みたいにアンタだけが欲しかった。
「……旦那をこうやって見下ろすのって、久しぶり」
「黙れ、猿飛」
「冷たいよ、旦那……ああ、でも、俺が旦那に入れるはずだったのに、何で俺が入れられてんの?」
「もう、喋るな」
「ふふふ……ごめんね、おしゃべりで……」
 でも、良いじゃない。
 最期くらい、許してよ。


 もう痛みは感じなかった。
 さっきまで熱かったはずの腹が、冷たかった。
 さっきまで冷たいと感じていたはずの竜の身体が、火のように熱かった。
 鎧越しじゃ、良くわからないんだけど。
 腹に突き立った刃を意識しながら、血が足りないのを言い訳にして、竜に覆い被さった。
「あぁ……最後に旦那とやったのって、何時だったっけ……? もっと、やっときゃ良かったなぁ……戦をしようなんて気力が起きないくらい……そしたら…………」
 うん。
 それでもやっぱり、こうなってたよね。
 アンタはやっぱり独眼竜で。
 俺もやっぱり、忍びなんだ。
「アンタの上で死ねるなんて、俺には上出来だ」
 でもやっぱり、もうちょっと違った未来もあったんじゃないか、なんて。
 今さら考えても、ね。

END
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