キミとボクに奇跡はない 雑踏の中に君を見た。あっと思って君を追おうとしたが、君までの距離とたくさんの人間に阻まれて、君を見失ってしまった。
高まった鼓動がすうっと静まり、君への感情の大きさと、君に出会えた奇跡を自覚した。
有象無象の人間がいて、君がいて、俺がいて。その二人が出会う確率はどれくらいなんだろう。君と一緒にいられる時間はどれくらいなんだろう。君を失ったら、俺はどうなってしまうんだろう。
想像するだけで死にそうに胸が痛い。
俺がここで死んだら、君は気付いてくれるのかな。
「佐助?」
驚いて顔を上げると、不思議そうな顔をして俺を覗き込む君がいて。俺はやっぱり泣いてしまいそうだった。
「なんで分かったの……」
「? 何が?」
「たくさん人がいるのに、俺のこと……」
すると君はさも当然のように云った。
「え、だってお前呼んだだろ? あれ? 空耳だったか?」
呼んでない。俺は君を呼んでない。そんなことしたら周り中の人間に君の名前を教えてしまう。
「……ね。奇跡って信じる?」
「Ha? 何だよ、いきなり……そんなのあるわけねぇだろ。世の中ゼンブ必然で出来てんだ」
うん。君がそう云うなら、きっとそう。
「ありがとうね」
「はぁ? 何が」
「ん〜、なんでも!」
ありがとう。
君がいて、俺がいて。数え切れない程の人間がいて。
(それでも君に会えたのは、)
END