まっていて、まだ、今は


 政宗が死んだ。
 政宗とは中学からの知り合いだった。
 当時アイツは父親から虐待を受けていたらしく、身体のあちこち傷だらけだった。
 アイツは何も云わなかったけど、性的虐待ってヤツだったと思う。
 何となく分かる、俺も同じだったから。

 高校に上がる頃には、アイツは援助交際に夢中だった。
 金を払ってくれるならどんなヤツにでもついて行ってたし、同時に何人も相手にすることもあった。

 じゃあな、佐助!

 そう云って、にやり笑って男たちとホテル街に消えて行くのを、いつも俺は見送っていた。
 頭だって良かったし、なろうと思えば何にでもなれただろうに、政宗はいつだって夢を持とうとはしなかった。
 ひたすら人生の下り坂を歩いていた気がする。
 ずるずると泥沼にハマるのではなく、自分から望んでスキップするように嬉々として堕ちて行った。
 でも、最低の人生なのに、いつだって政宗に後悔はなかった。
 首を締められて死にそうになっても。
 ヤバい連中に捕まって薬を打たれても。
 監禁されて行方を眩ませたていた後も。
 裏ビデオが出回って高校を退学になっても。
 HIVに感染していると分かった時も。
 絶対に自分の人生を後悔したり、「もしあの時」なんて仮定の話をすることもなかった。
 ただひたすら堕ちて行くことに夢中だった。
 もっとまともな人生があっただろうに、と後悔するのはいつも俺の役目だった。




 何となく予想はしていた。
 堕ちて行くのが好きなお前だったから。
 それでも俺はお前を止めなかった。
 どうせ最期なら、お前のやりたいようにやればいいと思った。
 足許にはアイツの遺書。
 コンクリートにスプレーで殴り書き。
「ホント、馬鹿だよね、政宗」


  “I CAN FLY!!
   でもその前におまえと1回
   SEXしときゃよかった!! M.”


「いくらでもしてやるから、浮気せずに、待ってなよ」


瞼の裏で、君が
投げキッスを寄越した


END
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