A≠Bの術式


『好きだ』――
 彼はいとも簡単に、そう云って笑う。

『嫌いじゃねえぜ』――
 あの人は迷いもせず、そう云って嗤う。

 真昼の太陽のように、おおらかで豪胆な彼。
 真夜中の月のように、鋭く繊細なあの人。

 正反対な彼らの間で、立ち回りつづける俺は、宵か、暁か。
 結局のところ、夜が来てやがて朝が来ることが避けられないように、行ったり来たり揺られながら身を任せる。
 似て否なるようで、その実、表裏一体であるかのような彼らの間にある明確な違いは、俺にとって主か敵か、ということ。
 ただ、それだけ。
 言葉にすれば確かなのに、今も揺れるのは。
 俺が罰されるべき不忠者か、救い難い妄執者だからだろう。

 ――『ごめんね!』

END
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