抹消的宣告


「もし俺がアンタを裏切ったらどうする? 殺す?」
 ある種予感めいたものを抱きながら聞いた。彼ならニヤリと笑って当たり前だろと云うと思った。事実彼はニヤリと笑った。赤みを帯びた薄い唇が完璧な孤を描く。
「いいや、忘れる」
 何のことか耳を疑うほどあっさりとそう云った。そしてそのままうっとりと恍惚に浸るように片方だけの瞼を下ろす。
「忘れてやるよ」
 まるで慈悲深い神仏のように柔らかな声が耳を打つ。その瞼が再び開く時、俺の存在が彼の中から消え去るのかと思うと、その片目を手の平で覆い隠すしか術はなかった。
「なかったことにすりゃあ良い」
 未だ微笑む唇が憎らしくて、やはり唇でもって塞いだ。手にした苦無が重みを増した。

END
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