翼 なんだかなぁ。
口に出してみると、ほんとになんだか自分が情けなくて申し訳ないというか。
頭では理解しているが心は納得できないという、あまりにも自己満足な感情を盾にして周囲との間に築き上げた壁。あまりに高く築き上げた壁は、自分がここにいることを周囲にしらしめる。孤独になりきれず、寂しい時は人恋しくて、人混みに沈んではひとりになりたいと呟く。自己の不安定さに気づきながらもどうにもならない。
これは焦燥。
何かに焦がれ、何かにあぐねいているのだが、それが何なのかはわからない。
自己への疑念。
望みもない未来への希望。
自分なら出来るはずという根拠のない確信。
あぁ、なんだかなぁ。
こんなはずではなかった。
どれが正しいかと聞かれれば、答えはないけれど。
百円玉は表と裏じゃ違う模様をしているが、百円という価値に変わりはないし。
たとえ今ここにいなくても、携帯から聞こえて来る声はあいつのもの。
馬鹿と天才は紙一重なんだっけ。
多分その程度の差とか、違いなんだろう。俺が今抱えているものは。
だれもいちいち指摘はしない、気づきもしない。
だけど自分が「違う」と感じた瞬間から、その差は歴然としていて、もう二度とそれらが大差ないとか同じだとかは思えない。
ただ、予感がする。
ここから一歩踏み出せば、何かが変わる。
踏み出せ。
今こそ。
「何してるの」
振り返ると、あいつがいた。
立ち止まったまま、ゆっくりと手を伸ばし、俺を捕まえようとする。
「こっちに、来て」
真剣なあいつの顔は初めて見た。中々男らしい。
「手を、伸ばして、お願い」
そんな声も初めて聞いた。
いや、違うのかな。
どこかで聞いたっけ?
あぁ、やっぱりあやふやな俺の中身。
「いかせないから」
お前にこんな顔をさせる自分が憎い。
羨ましい。
ほんと、俺なんてどうでも良いんだ。
俺が消えても、社会に歪みは生まれはしないし、悲しむやつはお前くらい。
「絶対に、いかせないから」
どうして、お前はまっすぐなんだろう。
迷わないんだろう。
俺が感じている下らない物事の差異でさえ、お前は知っているんじゃないだろうか。
「そんな所から飛んだって、上手く飛べやしないんだよ。アンタは人間なんだから」
あぁ、なんで俺は人間なのかな。
そんなこと望んじゃいないのに。
「おいで。アンタは飛べない、諦めて。俺が翼をもいだんだから」
END