餌「竜の右眼は何処にあるの?」
問われて。
小十郎は眉を顰めた。
「ああ?」
「だから、」
竜の右眼は、何処。
「あるんでしょ。旦那の右眼」
捨てたりしてないよね?
そう云う佐助に、小十郎は嗤った。
「だったらどうした」
「頂戴」
「ふざけるな」
「ふざけてないよ。アンタこそ、はぐらかさないでよ」
佐助の声は、小十郎の知らないものだった。感情を窺わせないそれは、確かに彼が忍びであることを小十郎に教えた。
「知ってどうする。冥土の土産に持って行くか?」
「まさか」
ちゃんと愛してあげるんだよ。
「……ほう。てめぇに出来るとは思えねえがな、忍び」
「アンタはずっと側に居られるくせに。右眼だけでも、くれたって罰は当たらないでしょ」
「政宗様を、一片たりとも、てめぇにくれてやる気はねえ」
……ケチ。
「云ってろ。だが、哀れなてめぇに教えてやる――政宗様の右眼は、伊達家の墓にある」
「……ふぅん」
「荒らすなよ。まあ、そんなことをすれば、てめぇが政宗様に斬り殺されて、俺はせいせいするがな」
「腹立つね、アンタ」
「てめぇもな。さっさと出て行け。次は斬る」
「今じゃないんだ?」
……あーあ。
佐助が残念そうに、大仰に溜息を吐いて云った。
「せっかく俺が、喰べてあげようと思ったのに」
――ひと足遅かったみたいだね。
天井裏から、忍びの気配が消えた後。
小十郎は、ひとり――嗤った。
「伊達に右目と呼ばれちゃいねえよ……」
END