それに触れると、彼は嫌悪感も露に身動ぎした。
「やめろ」
「どうして?」
「どうして、って……」
 云いにくそうに、語尾を窄める。その表情を見て、ああ、また良くない事を考えているんだな、と思った。
「俺は好きなんだよね、これ」
 彼の肌に散らばる紅い瘢痕を指でなぞる。それは特に柔らかい部分に多くて、そんな部分に触れることを許される自分に、優越感を感じる。臍の横にある、指先より少し大きいそれに触れると、彼は嫌がっているのか、それともくすぐったかったのか、ひくりと腹の筋肉を波打たせた。
「……どこが良いんだ、こんなの。汚いだけだろうがよ」
 ああ、またそんな風に自分を卑下する。
 どうして彼は自分の魅力を知ろうとしないのだろう。
「だって、蛇みたいじゃない?」
「蛇?」
 彼は眉を顰めて、俺が触れている場所を見下ろした。
「竜とは呼ばれちゃいるが、蛇ってのは初めてだな」
「そうなの? みんな見る目がないね。だって、ほら」
 それを舌で舐め上げると、ぬらりと光り、赤みが増した。
「鱗の跡みたい」
「鱗?」
「うん、竜の鱗。取れたら、こんな感じかなあ、って」
「……それで、なんで蛇なんだよ」
「それは秘密」
 うっとりと囁く俺を、彼が気味悪そうな目で見る。


 竜の化身のような彼。
 きっと前世では本当に竜だったに違いない。
 あまりにもその姿が綺麗で、竜を欲しがった不遜な輩にぼろぼろにされた。
 目玉を抉り、手足を切り落として、空を翔べないように。
 鱗を剥いで、生身に触れられるように。
 そして、翔べなくなった竜は、生まれ変わって蛇になった。
 竜の心を持った、蛇になった。
 そうでなければ。
「つ……ッ、ぅあッ」
「…………はぁ」
 潤った器官は蛇のようにうねり、粘ついて俺を丸呑みにする。あまりの居心地の良さに溜め息が洩れる。
 ああ、気持ち良い。
「さす……ッけ」
「うん、気持ち良いね」
「っん、う、う、ッはぁっ……ッ」

 ――竜を欲しがった不遜な輩というのは、俺に違いない。

 腰を鷲掴みにして前後に揺さぶると、彼は上体を捩らせ、身悶え、啼いた。
 すらりとした足が、俺を絞め殺すように巻きつく。
 淫媚な身体に、崇高な魂。
 ああ、なんて罪なひと。
「ねぇ。もっと、俺を締め付けて。離さないで」

END
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