背※松永×政宗
「卿は綺麗な背中をしているな」
と、男が云うので、政宗は着物を引き上げようとしていた手を止め、振り返った。
「瘢痕があんだろ」
どこに目ぇつけてんだ。
乱暴な物云いの政宗に、男は肉厚の唇を歪めた。
「そういう意味ではない。分かっているのだろう?」
「…………」
政宗が応えずに着物を羽織ろうとするのを、背後からにじり寄った男が腕を回して封じ込めた。
情事の後の、まだ火照りを残す肌と肌が密着し、政宗はふるりと身を震わせる。
「惜しいな。実に惜しい」
そう云いながら、男は雪のように白い肌に唇を這わせてゆく。
「一本……そう、一本で良い。太刀傷を走らせれば完璧だ。ここに」
右の肩口に指先が触れ。
「こう」
空気に触れるように繊細に。
すうっと左の腰骨までをなぞる。
ぞくり、と肌が粟立った。
「さぞ美しいだろう。どうだね? つけさせては貰えないかな?」
「Ha! 冗談じゃねえ。誰がてめぇを満足させるために、わざわざ進んで痛い思いするかよ」
「そうか、それは残念だ」
男はそうとは感じられない声音で呟く。
「卿は苦痛に浸るのが好きなのだと思っていた」
「誰がそんな」
「そして私は、苦痛に歪む卿の顔が好きだよ」
項に口付けられ、政宗は捩るように首を反らせる。
「情交の時の卿の顔はまさに苦痛のそれに等しい」
男の手が脇腹を下り、腰に纏わりついていた着物を落として、腰骨をなぞる。
不意に、ぐいと引き寄せられ、政宗は男の猛りを感じた。
「惚れ惚れする」
「…………っ」
後頭部の髪を鷲掴みされ、けれど酷く優しく布団に押し倒される。
「もう一度見せてくれたまえ。卿の美しい顔が、苦悶に歪む様を」
END