※元親×政宗





 ばたん、と音を立てて、政宗は倒れた。
「おいおい、大丈夫かぁ? ったく、奥州の竜も大したことねぇなあ」
 そう云って、男は盃をぐいと煽った。
 その呑みっぷりを見てしまった政宗は、やめてくれと目を覆う。
「俺だって、そんな弱かねえんだよ。てめぇが強すぎんだ」
「まぁねえ。四国の人間の酒呑みときちゃあ半端なもんじゃねえからな。俺は今からでも船に乗れるぜ」
「……やめてくれ」
 思わず想像した政宗は、途端に青褪めた。
 男がわざわざ四国から持って来た酒は、もはや底が尽きかけている。
 樽の底が、だ。
 政宗は顔を覆っていた手を退けて、鬼よりも質が悪いじゃないかと思いながら、今も飄々と酒を口にする男を見た。すると男も政宗を見ており、視線が合うや否や、にやりと人の悪い笑みを見せた。
「……なんだよ」
 政宗が問うと、男は一層笑みを深めて。
「いや、絶景だなと思ってな」
「ああ?」
 男の視線をはだけた着物の裾に感じ、政宗は慌てるどころか鼻で笑った。
「男の足見て楽しいか?」
「ああ、楽しいね」
 そう男が云うので。
 わざと片膝を立てて、腿の奥の際どい処までを見せた。
「誘ってんのか?」
 男は楽しげに云ったが、その眼は笑っていなかった。
「さぁ?」
 酔いで男の変化に気付かなかった政宗は、今度は立てていない方の足先で、胡座を組んだ男の腿を撫で擦った。
 不意に目の前が暗くなり、やはり飲み過ぎたと思った政宗だったが、実際には男に組み伏せられ接吻をうけていたことに、ややあってから気付いた。
「煽った責任は、取ってくれるんだろうなぁ?」
 鬼の尖った歯が、薄闇の中できらりと光る。
 しろがね色の髪もまた、きらきらと光を弾いて綺麗だと思った。
 こんな綺麗な男に抱かれるのは、悪くない。
 しかし、
「あぁ、いいぜ。ただし、明日な、明日。今日はもう眠……」
「おいっ、政宗! てめぇ、そりゃねえだろうが!」
 遠くで男が喚いているが、政宗は一顧だにしなかった。
 男とて、否やはなかろう。
 酔いに任せて重ねるよりは、素面の時に、思いの丈……。

END
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