※幸村×政宗←佐助





「佐助」
 主の声を聞き付け、佐助は音もなく部屋に降り立った。
 突然天井から姿を現した男に、隻眼の青年が驚いたようにその片方しかない目を見開く。
「ごめんね、驚かせちゃって」
 佐助が云うと、青年はびくりと肩を震わせ、困ったように幸村を見た。幸村は縋るような目を向けられて、優しく微笑む。
「心配御座らん、政宗殿。前に話したで御座ろう? 佐助は某の忍びで御座る」
 青年はそれを聞くと、害がないことが分かったのか、安心したように佐助に向かって微笑んだ。
「ところで旦那、どうかしました?」
「ああ、薬が苦いのか、政宗殿が飲んで下さらんのだ」
「あらら、まあちょっと苦いかもね」
「どうにかならぬか?」
 その間も青年の視線を感じて、佐助は落ち着かなかった。そんな素振りは欠片も見せなかったが、胃が捩切れそうな程うろたえていた。
 そんなに澄んだ目を向けないで欲しい。
「旦那の頼みとあっちゃあ、なんとかしないわけにはいかないでしょ」
「そうか、やってくれるか! 政宗殿、よう御座いましたな」
 そう云われた青年は、しかしよく分かっていない様子で、佐助を見て微笑むだけだった。
 そこへ幸村に信玄からの呼び出しがあった。
「佐助、政宗殿を頼んだぞ」
「はいはい、任せて」
「政宗殿、すぐに戻る故、待っていて下され」
 青年は微笑むだけで何も云わない。
 幸村が席を外した後は、云い得ぬ気まずさが部屋に満ちた。
 しかし、それを感じているのは佐助だけのようで、青年は相変わらず意味のない笑みを浮べている。
「ごめんよ、旦那。俺様を恨んでるでしょ」
 誇り高い武人をまるで白痴のように変え。
 自由に戦場を駆け抜ける竜をひと処に閉じ込め。
 凛とした眼差しをただの娼婦のように変えた。
 すべての元凶。
「ごめんね」
 首筋に触れると、白い肌に散りばめられた紅い痕に指を這わせた。
 ふるり、と幾分痩せた身体が震え。
 何かを期待するような目をして。
 佐助はそれから逃げるように青年の身体を引き寄せ、抱き締めて、縋るように、細い肩口に顔を埋めた。
「ごめん、ごめんね」
 佐助に出来ることは、せめて誇り高いこの青年が屈辱を感じることのないよう、自我を奪うだけだった。
「ごめんね、旦那」
 佐助は何度も詫びた。
 そうするしかなかった。
 通じない言葉など、虚しいだけだと知りながら。

END
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