※慶次×政宗





 ちちち、と鳴いて。
 仲睦まじく求愛の歌を歌う鳥たちを、慶次は満面の笑みを浮かべて眺めていた。
 鳥たちは囀りながら木から木へと移って行く。
 添い遂げることを決めたのだろうか。
「良いね、良いね、春だね」
 いつか自分も、無二の人と出逢い、連れ添う日が来るのだろうか。
「ああ、恋がしたいなあ」
 ふと、小鳥たちが留まった木の下に人影を見つけた。
 慶次の位置からは、大木の陰になって足しか見えないが、大人の男のものだ。煙がふわりと漂っているところを見ると、煙草を吸っているのだろう。
「やあ、兄さん。こんな処で何してんだい? 好い人でも待ってんのかい?」
 慶次が云って近付くと、男は顔を挙げて煙をふうっと吐き出した。
「花見てたんだよ。アンタこそ、こんな処で何してんだ。ここいらの人間じゃあねえな。旅の人かい?」
 男は突然声を掛けられたにも関わらず、驚いた様子もなく、逆に慶次に問い返した。それに気を良くした慶次は、一層男に近付き、前に立った。
「確かに綺麗な花だ。京の桜は格別だが、奥州の桜は風情があるね」
 桜を見上げ、再び男を見ると、男は何故か不機嫌そうな顔をしていた。
「兄さん? どうかし――」
「足」
「え?」
「踏んでんだよ」
 云われて慶次が足許を見ると、野花を足蹴にしていた。
「おっと、すまねぇ」
 慌てて避けると、ようやく男は眉間の皺を解いた。
「もしかして、花を見てたってのは、桜じゃなくてこいつの事かい?」
「ああ」
 どうして。
 と、云いたそうな慶次の顔色を読んで、男が言った。
「桜より、そいつの方が綺麗だろう。……ま、どう感じるかは人それぞれだ。アンタが桜の方が綺麗だって思うのも、間違いじゃねえ」
 その答えが、なんとなく慶次には嬉しくて、思わず笑った。
「良いね、良いね! アンタ粋だね、気に入った!」
「……アンタは変わってんな」
「そうかい?」
「で、アンタは何しにはるばる奥州まで?」
「恋を探しに」
 慶次の答えに、男は「What?」と云って首を傾げた。
「だってさ、春って恋をしたくなるじゃないか。兄さんは違うのかい?」
「……アンタ、やっぱり相当変わってんな」
 男は呆れたように、けれど楽しそうに、静かに笑った。
「そうかな? 兄さんは恋したくならないのかい?」
「そうだな……」
 そう云って男は遠くを見つめるように天を仰ぎ。
「恋ってのは、するもんじゃねえ。落ちるもんだと、俺は思うぜ」
 艶やかに笑う男を見て。
 慶次は。
「……俺も今知った」
 と、どこか惚けた顔で呟いた。

END
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -