「旦那ってさ、云わないよね」
「……何だ、いきなり」
 気怠げに着物を羽織り、アナタはいつものように俺に興味を失う。
 安眠と、適度な快楽を得られればそれで良いのだとは知っていても、アナタの温もりを手放した後は少しだけ寂しい。
「うん、だからさ、ワガママとか。云わないよね」
「そうか? 小十郎の奴にはいつも我儘云うなって口煩く云われてるけどな」
 それは彼を自分の一部として認めているからじゃない。
 とは、云わない。
 悔しくて。
「それに第一、忍びに我儘云ってどうすんだ」
「あ、そういうこと云う? 俺様頑張って我儘聞いてあげるのに」
「ふぅん?」
 アナタは少しだけ俺に興味を取り戻したように笑って。
「じゃあ、もう帰れ」
 あんまりにも、酷い科白を吐くから。
「ひっどいなぁ、旦那」
 俺も笑って応えるしかないじゃない。
 へらへらと、馬鹿みたいな嘘笑い。
「ほんと酷い」


 アナタの言葉が空けた針の穴ほどの風穴は、会う度にひとつずつ増えて行って。
 もう取り返しが着かないところまで来ている。

END
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -